【即興】ノリと勢いで書く短編集 (ページ30)

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即興にじゅうきゅう【パラフィリア要素を含みます】ページ30

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ごめんなさい、と女は云う。
肩を落とし、すっかりしょげ込んだ様子で冷たい椅子に座る彼女の様は、
ある種の同情さえ誘った。

「どうして君は、こんなことをしたのかね。
許されると思ったのかい」

「いえ、まさか……！」

四、五十の頃の、スーツに身を包んだ小太りの男に問いただされ、
彼女はふるふると首を横に振った。

部屋は大して暑くもないのに、男の額にはうっすらと汗がにじんでいる。
それをハンカチで押さえるようにして、時折拭いながら
男は目の前に座る女を見据え、あれこれと質問を重ねているところであった。

二人はしばらくの間黙っていた。
女は何か、もごもごと口を動かし、少し開いて、そしてまた、言いにくそうにして口を閉ざす。
男のほうは、女が何か話すのを内心急かしながら、
一切口には出さずに黙って待っていた。

女の腕をくくる拘束具が、全く無意味な脆弱なものに見える。

この女は、大人しくて控えめそうななりをしているが、
――しかし、……しかし、此奴は大量殺人犯なのだ。もし、下手に刺激して――

それで、襲われでもしたら。

腕力の上では明らかにこちらのほうが有利にもかかわらず、
彼は得体のしれない恐怖感に身を震わせていた。

と、不意に女が「あれは、」と口火を切る。

「あれは、好きで、やったんです」

「好き？何が好きなのかね、
……まさか殺しがか」

「……誰にも話さずに居たのですけど、……そうです、
何の異議もありません。私は」

殺めるのが狂おしいほどに好きで、とうとうやってしまったのだ

彼女は泣きながら一通り語って、申し訳ないですと口にする。
「私は恐ろしく未熟でした。許されないことだと理解していたのに、
自分の理性の危うさ、脆さを何も分かっていなかった」

「……私は、死罪ですか」

やがて女はポツリとそう言った。
男――取り調べの任に就いた刑事は、その言葉にしばし黙し、
そうして「私にそれを決める権限はないが」

「まず、死罪だろうな」

「そうですか。……けど、それで良かった、これでもう、殺さずに済みます」

女はまた小さくこぼし、すっかり安堵したように口元をわずかに綻ばせたのだった。

【エロトフォノフィリア】……殺人性愛