【即興】ノリと勢いで書く短編集 (ページ29)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:1,946 hit

即興にじゅうはちページ29

.

駄目だ、これは全くよろしくない、
よろしくないどころか、最悪かもしれない。

アキは目の前に広げられた問題用紙を見下ろしながら
脳裏にある一人の女を思い浮かべた。

貴方のせいだ、と心の内で呟く。

えらく本好きの、活字中毒者の女――アキの姉であるが、彼女は
この一週間、書庫と化した自室に籠りきって、
あれもこれもと本棚の本を片端から読み倒していた。

食事もとらずに活字に没頭する厄介な姉に食事を届け、
どうにか読書を止めさせて部屋から連れ出して
浴室へ行かせるのは、残念なことにアキの役目だった。

稀覯本がどうの、などとごねる
ビブロフィリア的な面のある姉の「引きこもり読書期」が
よりにもよって試験期間に重なった。

その結果がこれだ。

全く解らない。

彼女は文法の解説だけはしてくれたが
数学とは万年ケンカ中だとかで一切教えてくれなかった。

「お前ならイケるよ、数学は得意だろ？
俺には無理だけどさ」

(イケないってバカ姐――)

書籍を前にきらめく瞳でさらりと言い放った
傍若無人の権化に舌打ちが出そうだ。

脳裏の姉が「ガンバレ」と手を振る。

「『未来の未来は今にあり』だ！」

(―――………何の参考にもならない！)

ぎりっと歯軋りして、アキは問題文を睥睨した。

やるしかないのだ。どうしても解かねばならない。
このテストは進路に関わる、下手すれば志望校のレベルを下げざるを得ないかもしれない。

それは嫌である。

勘弁してくれ。

シャーペンを握り直して、アキは再び問題に目を向けた。