【即興】ノリと勢いで書く短編集 (ページ28)

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即興にじゅうしちページ28

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全く奇妙な心地でした。

周りの友人が盛り上がれば盛り上がる程に、そして、この場の空気が
どんどんと温度をあげて、汗のにじむような暑さになるにつれて
私は反対に気持ちも沈み込んで、心は一層冷え冷えとするのです。

はしゃぐのも、じゃれ合うのも決して嫌いというわけではありません。

生来、私は跳ねるようにはしゃぎ回るのを、好む性質で、いわばお転婆な娘でしたので
こうして仲間内で遊び回るのも、けらけらと笑い合うのも好きでした。

――だのに如何してでしょう。

今では笑っても何の感情も籠らない、形ばかりの笑顔になって
楽しい、面白い、と思えるようなことが、自分の周りから一切
消えて無くなってしまったかのように感ぜられて、くっと口角を吊り上げる度に
虚しさや苦しさが大挙して押し寄せてきて、堪らない気持ちになるのでした。

「君、如何しましたか。心此処にあらず、という感じですが」

或る時、そんなことを云われて、何の言葉も咄嗟に返せず少しの間
黙ってその人をぼんやりと眺めていたことがありました。

あの後私は結局何と返したのでしょう。
もしかしたら、何も返さなかったかもしれない。

ただ、その通りだと思ったのです。

心此処にあらず。

まさにそうだと思いました。

心だけ何処かに置き去りにして、重い体を無理に引きずって、
平然とした風を装い、建前をひとつ、ふたつ、みっつ……と口から吐き出す今の私。

そんな私が、何やらとても卑しい、下卑た人間のように思えて
自分で自分が嫌になります。

嘘ぐらい、誰だって吐くでしょう。
目の前ではしゃぐ友人の中にも、本心ではあまり楽しんでいない者がいるかもしれない、
彼らにだって建前というものがあることを、無論分かっていました。

……法螺を吹くのは悪いことです。本気でそう思っていたのは幼少の頃まででしたけど
咎められなかったことなど一度もないのですから、それに違いないのでしょう。

建前という冠のついた嘘を吐き散らすことに
罪悪感を覚えたことはありませんでした。

けれども今では、何故だかすっかり自分が穢れたような気分です。

凍り付きそうな程に温度の下がった気持ちを
胸中にしっかりと、軋んだ音が聞こえるのではないかという位に強く強く抱きとめて、
酷く劣った厭らしい、下賤な私が少しも顔を覗かせることの無いように私は――………。

＊

「私は空を飛ぶのです」