【即興】ノリと勢いで書く短編集 (ページ19)

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即興じゅうくページ19

その人は、心底、退屈そうな顔をして、はぁ、とため息をひとつ吐いた。

何がそんなにつまらないのか、尋ねようとして、しかし、喉まででかかったそれをぐっと堪えて飲み込んだ。

代わりに、「溜め息なんて、幸せが逃げますよ」などと、戯れ言めいた有名な文句を投げ掛けた。しかし彼はやはり、ため息だけ、そっと吐いて、此方を、ちら、と見やっただけである。

もしや、何か、気に障っただろうか。人の気分を、自分の知らぬうちに害する、ということは、誰しもよくあることだ。

だが、厄介なことに、気分を害したのだとは、あまり教えてはもらえない。
さてどうしたものかと、暫し考えていると、不意に、
「あぁ、君、暇ですか」
と、彼が云った。
暇かといわれれば、確かに、暇である。それこそ、繕いようのないほどに、その時の私は、暇だった。だから、こくりと頷いて、肯定した。

これを見た彼が、わずかに戸惑って、それからまた、口を開いたので、私は、黙って、話を聞くことにした。

「………実はね、僕の遠縁の親戚の話なんですが、…人に、いや、貴方に話していいものか、分かりませんけど、聞いていただきたいのですよ」
「その親戚が、ひとつ、小さいですが会社を経営してましてね、それが…その、なんと言いますか……。はっきり、包み隠さずに云うと、倒産という運びになりまして………」
彼は、そこまで云うと再び、小さな、けれども深いため息を吐いて項垂れてしまった。

遠縁とは言え、親戚の会社が、倒産。私の縁者にそういった人がいないから実際のところは倒産が、どういうものか、まったく解らないがとりあえず
「それじゃ大変ですね」
と声をかけた。
言ってすぐ、いくらなんでも冷たかったか、と後悔した。