第82話 悪夢ではない ページ40
夢を見ていた。
私のすぐ後ろには大きな波。
必死に逃げるがどんどんと押し寄せる波に、私は足を取られ、飲み込まれそうになる。
助けを求めるがみんなは橋の上で見ているだけ。
もうダメだと思った時、私の前に大きな背中。
虎…。いや、豹のような容姿のルッチ。
現れたと思ったら波に向かって走り、飛び込んでいこうとする。
『…ルッチ！』
ーーーーーーー
ばっと起き上がる。
ーー夢か…。
声が出たことに驚いて起きたが、現実では声は出ないままだった。
私の身体は冷え、小刻みに震えていた。
あの時、確かに恐怖を覚えたが、夢に見るまでとは思っていなかった。
私は未だにその恐怖から逃げられないでいるらしい。
『…っぅ。』
体を丸め、震えを抑える。膝を抱えると、声にならない声が出る。部屋には誰もいない。カリファさんの本が机に置いてあるだけだった。
孤独からの不安で押しつぶされそうになり、膝に顔を填めた。
ーー誰か…。
｢……どうした。｣
いきなり声をかけられビクリとする。顔を上げて見れば、夢に出た彼、ルッチが扉の前に立っていた。
『…。』
声が出ないために名前は呼べなかった。
｢…声が出ないとは不便なもんだ。｣
そう言って私のベッドに腰掛けた。
ルッチの肩には、怪我を負っていたハットリが元気そうにクルッポーと鳴きながらとまっていた。
私がハットリに笑いかけると、ハットリの横のルッチと目が合った。
｢…礼を言う。こいつが助かったのはお前のおかげだ。こいつとはガキの頃から一緒だったが、俺の元に帰ってこない日は昨日が初めてだった。｣
そう言ってハットリを撫でたルッチの表情はどこか柔らかい印象を得た。
私はようやく震えが止まったのを感じ、紙に書き込む。
【こちらこそ、昨日は助けてくれてありがとうございました。】
見るとルッチは、
｢ーーいや。｣
それだけ言い黙ってしまった。
沈黙が気まずいが、紙に何か書こうにも思い浮かばず手が止まった。そんな私を見たルッチは、真剣な顔付きで話し始めた。
｢…昨日、お前はなぜ1人であそこにいた？俺がいなければ死んでいた。｣
私はギクリとした。
自分でも自分のとった行動が分からないのだ。
何故と言われれば彼を思っての事だったと思う。
しかし、本人であるその彼になんと言えばいいものか。私は悩んだ。
何故なら、彼を助けるどころか、逆に助けられた身なのだから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 323人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アタル(プロフ) - サクラさん» サクラさん、ありがとうございます！コメントで感想を送ってくださると本当にやる気が出ます。自分で始めたので頑張るというのもなんか変な感じですが、頑張ります！ (2019年10月12日 17時) (
レス) id: e103d991e7 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ - カクもルッチもカッコいい…！毎回キュンキュンさせてもらってます！更新頑張ってください！ (2019年10月12日 16時) (レス) id: 2be65d96af (このIDを非表示/違反報告)
アタル(プロフ) - akane10746さん» 前回からコメントありがうございます！続けてみてくださっていてとても嬉しいです！頑張ります。 (2019年10月8日 13時) (レス) id: e103d991e7 (このIDを非表示/違反報告)
akane10746(プロフ) - 毎回面白いです!更新頑張ってください！！！ (2019年10月8日 9時) (レス) id: 38a8873821 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：アタル | 作成日時：2019年10月7日 0時
