星30個 ページ30
時透視点
「甘露寺さん、来てたんですね。」
僕がその部屋に入ると、桜餅のような髪色が目に入った。
声をかけると、彼女はほんの少しだけ笑った。
「ええ、今朝任務が終わってそのまま。」
声にはいつものような明るさが無かった。
柱の中でAと一番仲が良かった甘露寺さんだからこそ、早くお見舞いに来れなかったことを悔やんでいるのかもしれない。
「冨岡さんもさっき来たんだけど、花瓶の花を替えたらすぐに任務に行っちゃった。」
甘露寺さんが指さした先には、Aが前に好きだと言っていた梅の花があった。
風が部屋に吹くたびに、花がゆらゆら揺れる。
「Aちゃん、なかなか起きないね。」
ふと、甘露寺さんがそう呟いた。
目線の先のAはまだ目を閉じたままで、まるで蝋人形みたいだ。
「Aが受けた血気術は、本人ではない僕も精神的苦痛を伴うものでした。本人が負った苦痛は想像できません。
正直、心が壊れてしまってもおかしくないと思います。」
自分の記憶の追体験。それだけがあの鬼の血気術じゃない。
頭のどこかでそんな確信があった。
「Aちゃんはずるいわ。いつも優しく話を聞いてくれるのに、自分のことは話してくれないじゃない。」
彼女の髪を撫でる甘露寺さんの手つきはとても優しくて、悲しそうだった。
任務があるからと、部屋を去った甘露寺さんを見て、もうそんな時間かと思う。
僕も今日は任務がある。
部屋を出る前に風が強くなってきたから、窓を閉める。
Aの顔に髪の毛がかかっていたから、手ではらう。すると、Aの目蓋がくすぐったそうにぴくりと動いた。
突然のことに驚いていると、彼女の目が少しずつ開かれる。瑠璃色の瞳が僕を見た。
「お、おはよう。」
ようやく出た言葉はそれだけだった。
もっと、「心配した。」とか「目が覚めてよかった。」とか、言葉はいろいろあった。
でも、安心しすぎたのかとっさに出てこなかった。
Aは、一瞬寂しそうな顔をしてこくりと頷く。
この行動の意味を、僕はまだわからないでいた。ただただ、Aが起きたことが嬉しかった。
121人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
☆カペラ★ - こんばんは、これめっちゃ良い話ですね!ハマりました!!時透君カッコいい!!更新頑張ってください! (2020年1月14日 21時) (レス) id: 04526cdaa3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:コゲパンです。 | 作成日時:2019年9月7日 23時