タルトレット【宮侑】 (ページ19)

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タルトレット.19 ページ19

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少し腫れぼったい瞼。
この週末は泣きすぎたと廊下を歩きながら考える。

土曜日の赤い糸事件から約二日。私の中でまだ恋心は残っていて、北先輩を見ると幸せな気持ちになれた。

赤い糸は今日は見えない。それがせめてもの救いだった。先輩の相手が学校に居ても知らないですむから。

図書室のめぼしい席を見つけて、勉強道具一式を広げる。
侑くんが「部活見にこんでエエから、一緒に帰ろ」と提案してきたため、時間潰しである。

毎日行っていて習慣化した大量の勉強。
将来の夢を叶えるためと言えば聞こえがいいが、私の場合将来の夢と東京の方に上京するという願望が含まれている。
少し不純だろうか。

部活が終わる十分前、机に広がった教科書や参考書、ノートを鞄に押し込んでそこを出た。

冷えた廊下で身を震わせて昇降口で靴を履き替える。
校則で靴は自由だから、私は藍色のスニーカーを履いている。
藍色は小さい頃に誰かが似合ってると言ってくれたから、大好きになった。

白い息を出し続けて五分、侑くんは私を見つけると少し嬉しそうな顔して走ってきた。

「A、いつから待っとったん？」

「……、五分くらい前かな？」

冷えきった頬に当てられた手は熱を持っている。つい数分前まで部活を本気でやっていたからだろう。

「明日から、俺が迎えに行くからえ～と、」

「図書室。」

「そうそう、図書室で待っとけ。」

ピタピタと顔中に当てられる手。
もっと優しい言い方はできないのかと思ったけど、これが彼の不器用な優しさなのだろう。

「わかった。」と言うと、「なら帰ろっか。」と言われる。
帰り道の彼はずっとご機嫌に見えて、上手とは思えない鼻歌まで聞こえてきた。

「ねえ、侑くん。手袋着けてるのに、手繋ぐ必要ある？」

「気にしたら負けやで。」

何その理論。もうツッコミやめよう。

それにしても、侑くんがご機嫌なわりに会話は無い。まぁ、静かな方が好きだからいいや。

家の前まで来たら、ようやく彼が口を開いた。

「なあ、偽の恋人に成らん？」

「ごめん、詳しく説明してくれない？イマイチ理解できなかった。」

私から見えるのは彼の横顔だけ。それだけで、彼がめずらしく緊張してることがわかった。