愛は絆よりも奇なり

絆 ―30― 荒北side ページ31

オレの部屋割りは東堂と真波と同室だ。
東堂はうるせぇし、真波は不思議チャンだしヨ。
練習が始まるのは1時間後。
オレはAチャンと話した後、自分の部屋に入った。
中には東堂がいる。

「…真波はどこいったんだヨ」

「坂を登りに行ったぞ」

「ハッ、こういうときだけ行動力があんじゃねぇか」

坂好きのあいつに程々呆れる。
あー、こいつもクライマーだったわ、なんて思いながらバッグからサイクルジャージを取り出す。

「…なぁ、荒北。Aとなんかあったか??」

「…あ゛??なんもねーよ」

「おまえと話してるAの雰囲気が少し違うものでな」

「ハァ??考えすぎだろォ」

オレはシャツを脱いで、ジャージに袖を通した。

「東堂、おめーAチャンが他の男を好きになったらどうするヨ」

「ふむ、考えたことなかったな。…本気なら関係を解消して応援するしかあるまい。…と言いたいとこだが、できそうもないな」

黙々と着替えていた東堂が、ふと動きを止めてオレを見てきた。

「あ??ンだよ」

「…おまえ、いつからAのことチャン付けしているのだ??」

「あー…いつだったっけェ。ま、意外とあいつは…」

そこまで言って、フッと笑ってしまった。
あいつは意外と、オレに自分をさらけ出してんヨ。
おめーの知らねぇあいつをオレは知ってる。
っつっても、オレの知らないあいつを東堂が知ってる方が多いんだろうが。

着替え終わり、東堂と部屋を出た。

外に出ると福チャンたちはチャリのメンテ、Aチャンは冷えたドリンクを人数分ボトルにうつしていた。

全員の準備ができると、Aチャンがボトルと補給食を持って配っていた。
頑張ってくださいね、と言いながら。

「感謝するよ、A」

「いいえ、頑張ってください、尽八さん」

東堂はAチャンの肩にぽんと手を置いた。
彼女はそれに応えるようにニコッと笑った。

最後にオレのところにくる。

「頑張ってください、荒北先輩」

「…オレァ人に頑張れっつーやつは嫌いだ」

「…何それ。ただのひねくれ者じゃん」

Aチャンはオレの前にボトルを突き出してきた。
オレは乱暴にそれを受け取る。

「おめーに言われなくてもオレはやンだよ」

「あーはいはい。怪我だけはすんなよ」

「なァに??オレが心配かァ??」

オレは思わず口角を上げる。

「バッカじゃないの??手当が面倒臭いだけ」

補給食も渡され、それをジャージに突っ込む。

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