愛は絆よりも奇なり

絆 ―27― ページ28

あたしは鍵を閉めて帰ろうとしたのに、それを荒北先輩に阻止される。
それどころか、あたしの隙をついて腕を押さえつけてキスをしてきた。

なんの嫌がらせだ!?

振り払おうと腕に力を込めたが、以前と同様に動くことはなかった。
あたしは口を少し開き、先輩の唇を噛む。

先輩の手に少し力が入り、一瞬唇が離れたが、すぐに再び口付けられる。
その一瞬離れた隙に、抗議をしようとしたが叶わなかった。

「ちょ…んっ」

しばらくして先輩があたしから離れる。

「ってェ…」

先輩はあたしに噛まれたことで、口の中を切ったらしい。
口元の唾液と血が混ざったものを手の甲で拭っていた。

あたしはというと、今まで感じたことのない、心臓が嫌な音を立てていた。
先輩にも聞こえるんじゃないかというくらいの、身体の奥からの音のようだ。

「あんた、どういうつもり!?あたしがそんなに嫌いか!!嫌がらせでもしたかったのかよ!!」

「…あ゛??…オメーなんざ、でぇっきれェだ」

あたしも自分の服の袖で今のキスをなかったことにするように、口を拭った。

「…東堂のモノのおめーなんざ、な」

先輩はそう付け足した。

「…何それ。あんた、尽八さんが嫌いだったの??だからあたしに手ェ出してくんの??」

「あ??東堂ォ??…あいつウゼェけど、別に嫌いじゃねーヨ」

尽八さんが嫌いじゃないならなんであんなことしたんだよ。

「じゃああんたのしたことがわかんないんだけど。何がしたかったわけ??」

「…上書きしてやったんだヨ」

わかった。
尽八さんとのキスをこいつは上書きした。
そういう意味か。

でもなんでそんなことする必要がある。
好きでもないやつに。
…好きでもないやつ??
もし好きだったらやんのか。

「…先輩、あたしのこと好きなの??」

解決しない謎のようにもやもやしていたものを、はっきりさせたくて聞いてみる。
いや、でもあたしはないよな。
あたしが男だったら、こんな態度取る女、好きにならない。

「…欲しいっつったら大人しくくれんのォ??」

まさか…これは…あたしの質問にイエスと答えているのだろうか。
どうせ冗談だろ。

「あんた、あたしが尽八さんの許婚って知ってんでしょ??家族ぐるみで公認なわけ。今更それを破棄できるわけないでしょ」

「…ハッ、上等。オレはそっちの方が燃えんだヨ」

先輩は口角を上げながら笑っていた。
それは獲物を捕らえる野獣の目。

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