愛は絆よりも奇なり

絆 ―2― 荒北side ページ3

オレは着替えてチャリ部の練習場に入ろうとすると、後ろから声をかけられた。

一般的に言って、かわいいと言われる部類の女だと思う。

品もよくて、ニコニコしてて人当たりもよさそうだ。

だが、なんか匂う。
胡散臭ぇ匂いだ。
なんだァ??この女。

その女は東堂に用があるようで、オレは中に入って東堂を呼んだ。

「東堂ォ、なんか女が呼んでんヨ」

「ん??誰かね」

「あー…なんだっけェ、名前忘れちまったな」

さっき名乗ってもらったのに、すっかり忘れた。
それくらい興味がなかったのだと思う。

どうやらこの女、東堂の許婚らしい。
そんなモンがいんのかヨ。
しかもお嬢様ァ。
アホくせぇ。

「そうだ、A。マネージャーにならんか」

「ハァ!?こんなお嬢様にできるわけねぇだろ!!」

「というか男しかいないところに女の子1人入れるなんて、大丈夫か??」

無理だろ。
お嬢様にはできやしねぇヨ。
マネージャーだからってそんな甘いモンじゃねェ。

「Aはこう見えてもなかなかのマネジメント力なのだぞ」

「尽八のお墨付きってわけか」

「…尽八さんがそう仰るなら喜んで。でも主将さんの許可が必要ではないですか??」

「それならオレからフクに話しておこう。今度入部届だけ持ってきてくれ」

「はい、わかりました」

Aが帰っていくと、オレたちは練習を始めた。

「東堂、マァジであいつマネージャーにするつもりかヨ」

オレは反対だ。
女に務まるとも思えねぇし、何より胡散臭い匂いがプンプンだ。
その正体もわからねぇのに入部させんのかって話だ。

「まあ最終決定はフクだから、まだわからんがな」


だが数日後、福チャンが『東堂の知り合いならおまえに任せる』ということでAの入部が決まった。



それを知った日の昼休み。
パンを持って静かな中庭に来た。

「あー…面倒くさ」

女の声がする。何かの紙をひらひらさせて睨んでいるように見ていた。

チッ、先客がいんのかヨ。

引き返そうと思ったが、その女は見覚えがある。
ふわふわした髪型や華奢な身体は変わらない。
ただオレが以前見たときと、雰囲気が全く違う。

「オマエ…」

それは間違いなく東堂の許婚、Aだった。
Aはオレを見ると、目を真ん丸にして持っていた紙を落とした。

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