le petit cadeau (ページ26)

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帰りの電車で彼と鉢合わせた
夜遅い時間だからか、乗客は少ない

あからさまに避ける事ができなかった私は
彼と3人分空いた所にに座ったまま
車窓に映る夜の街を見ていた

「…、俺のこと避けてますよね」

話しかけられるとは思わず
少し体が強張って構えてしまった

『…いや、』

どう答えれば良いのだろうか
言葉を選んでいた私に彼は言った

「あの時思いっきり殴ってれば良かったのに、
　そうすりゃ俺どうにかなったのに

　先輩は優し過ぎるんですよ」

『…そんな事できないわよ』

「…俺だけじゃなくて、
　先輩も辛いのはわかってます」

「此間はすみませんでした

　あ、俺先輩とそういう関係になろうと
　思ってませんから」

『…』

横にいる彼を見た

久しぶりに見た彼の目

柔らかい目で私を見ていて
穏やかに微笑んでいた

「ただ…

　幸せになって下さい」

誰にでも、
平等に幸せになる権利はあると
誰かが言っていたのを思い出した

「本当に先輩に伝えたかったことは
　これだけです」

「あー、

　俺、それだけ伝えたかった筈なのに
　ダサいことしちゃったな」

俺ダサっ、なんて笑う彼

"次の駅は、" "駅です
左側のドアが開きます、ご注意下さい"

到着を知らせるアナウンスが聞こえた

「じゃあ、俺次の駅なんで」

『…』

"ありがとう"

自然に出た言葉
電車のドアに阻まれ彼に伝わる事は無かった

遠くなっていく彼の後ろ姿を見て
涙が出た理由、今なら分かる

彼の言葉に揺らいだのも
今の生活に自分がどう思っているのかも

私、本当は辛いんだ
隠しきれてなかったんだ

幸せになりたいんだ

誰にでも平等に幸せになる権利があるなら、
自分の為に我儘になっても良いんだ

そんな当たり前の事を
気づかせてくれた彼が有り難くて

涙が止まらなかった