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彼が新人だった頃
教育係として私が暫く側について仕事していた
新人ながらも明るく堂々としていて
仕事が出来る人だった
しかし彼も人間、
ミスだって当然する
「先輩、俺っ…すみません」
『大丈夫、よく頑張ったよ』
「…俺、頑張ります
頑張って、もっと仕事出来る人になります」
責任感が強く、
人一倍落ち込んでいた時もあったが
そこで挫けなかった
その後彼は急成長を遂げ、
営業部の中で良い成績を修めていき
今ではエースである
違う部署に配属になった後も
すれ違ったら挨拶してくれた
「A先輩、お疲れ様です」
『スンチョル、お疲れ、』
「実は出張あって…
これお土産です、良かったら食べて下さい」
『ありがと、でも気遣わなくて良いのに…』
「良いです、いつもお世話になってるんで」
じゃあまた、と爽やかに笑って去っていった
彼とはサシで飲みに行くこともあった
新人の頃、彼の相談に乗っていたのがその始まりで
今では世間話とか
旦那の愚痴とか話すようになった
『…聞いてよ
うちの旦那家事全然してくれなくてさ…』
「ソジュンさん？でしたっけ、」
『そう、もう本当に腹立つアイツ…
家帰ったら食べ終わった
食器がシンクに置いてあるの
で、結局洗うの私よ』
「うわあ、大変すね…」
何も言わずに、ただ聞いてくれた
旦那の浮気が発覚した後
女の勘というやつだろうか
スンチョルの視線や行動に
何か感じるモノがあり
その正体は当たっていたような気がする
それから2人で飲みに行くのも極力控えて
そういう言動を取らないように
気を付けていた
あの夜の彼の悲痛な叫びは
私には"幸せになってくれ"というエールに聞こえた
痛いほど真っ直ぐにぶつけてくれて
心の底から心配してくれている人がいた
私は少し変わってしまった
彼の言葉に
少し揺らぎそうになっていた自分が嫌だった
水面との境目が分からなくなるように
ただの後輩への感情が、
ナニかに変わってしまいそうだった
超えてはいけない線が
脆くなったのは事実
旦那の浮気に加えて、
私がそんな状態なんて信じたく無かった
結局、私も同じような人間なのかも…
これは今の状況がそうさせている
一種の馬鹿げた精神状態だと自分を正した
私は幸せなんだ、
だからそんな事しない
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作者名：89 | 作成日時：2023年4月8日 15時
