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訳もなく背後を確認したり、遅番を無くして貰ったりした。
家から身を出したくない。早く誰かに助けを求めたい。
けれど、あの男性がどこから私を見ていてどれほど私を知っているのか、その全てが未知数なあまりに、私の日常から外れた行動が抑制されてしまっている。どこに居ても息は詰まるばかりで、まるで異世界に飛ばされたような心地だった。
突然立場は変えられない。しかし、ホールに出るのも憚られる。理性と本音の折衷案として選んだのが、レジ打ち担当だった。本来特定の人物がつくものでもないはずだが、その辺は店長による粋な計らいなのだと思う。
ほとんど注文を取りに出ていたとはいえここの勤務も長くなる。馴れた手つきでレジを打ち、むしろこちらの方が向いているとまで思う場面もあった。
唯一の懸念点といえば、件の男性が入店してきた場合の鉢合わせ率が100%なところ。軽快な入店音が鳴り響く度、その姿を頭からつま先で確認した。安心する事ができたとは言え、やはり気持ちはどこか浮ついたままだった。
『……いやいや、仕事中だし』
姿勢を正し、そう言って己を戒めてみる。我ながら見上げたプロ意識だ。鼻から息をひとつ吸うと、口から深く吐き出した。
ついでに視線をあげ、店内を見回してみる。相変わらずの繁忙っぷりで、店員が慌ただしく駆け巡っている様子が見て取れた。見える限りのお客様もお食事を楽しんで頂けているようで、飲食という職を選んだ理由が思い起こされたような気がした。
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作者名：えん | 作成日時：2024年2月27日 15時
