4(side桜庭) ページ4
「だから体格差のある女性は参加するべきではないと言ったんだ…」
「ごめんなさい…楽しそうだったからつい…」
自業自得だ、とAに冷たい言葉を浴びせて、反省させる。
怪我をさせたのは柏木であっても、原因を作ったのは本人なのは、わからせておく。
シュン…と彼女は肩を落とし、まだ少し痛むらしい胸に、冷やしておいたペットボトルを当てている。
でもまぁ…大したことはなさそうだ。
コイツの主治医ではないが、しばらくは近くで見守るか。
「落ち込んでると、体調が悪化したと勘違いされて悪循環だ。」
見守ると言いつつも、俺はあまり優しい言葉をかけるのは得意ではない。
「優しいですね」
は？
「私も診てもらっているのに、柏木さんのことも気にかけているなんて。」
「…同じアイドルグループだからな。アイツは1人で抱え込みやすい。面倒ごとになる前に解決したいだけだ。」
優しい？俺が…？
彼女の観察力を疑ったわけではないが、少し驚いて彼女に目を向けた。
女性の肌は、元外科医として何度も見てきた。
だが、あまり晒すものではないと、見ては、見せてはいけないものだと、俺の中の何かが警告を鳴らす。
たしかAのパーカーは…これか。
少年達と馬鹿が荷物を積んでいったおかげで下敷きになっていたパーカーを抜き取り、砂を払って彼女の肩にそっとかける。
「あ…ありがとうございます。やっぱり先生は優しい。」
ふふっと微笑みかける彼女から、目をそらす。
「…先生はよせ。」
「あ、そっか。今はアイドルの桜庭さん。」
どうもしっくりこない。
「それはそうだが…、一人の人間として扱ってほしいものだな。お前の作品からはそう感じたが？」
「え！読んでくれたんですか？！」
ぱあっと顔が明るくなって、詰め寄って来られ、すこし焦る。
「それは…取材を受けたんだ。ちゃんと仕事は最後まで見届ける。」
わかっている。
先生だなんて、冗談で呼ばれたこと。
だが、どうにも腑に落ちないんだ。
「だから、…俺は桜庭薫だ。一人の人間として、名前を呼んでほしい。」
何を言ってるんだ俺は。
「！…はいっ薫さん」
照れそうなのを必死に隠していたが、Aの笑みを見て、口元が緩む。
でも、ようやくもやもやの正体が解けた。
自分がこんなことにこだわるなんて、思ってなかった。
お前の主治医になら、なってもいいかもな。
呟いた言葉は穏やかな風に乗り、緩んだ頬をかすめた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 92人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ナイン | 作成日時：2018年10月9日 9時
