ロゼッタ２ (ページ7)

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「京本がいる部屋、防音は完備してるけど暖房器具がないんだよ。置けって言ってんのに乾燥しやすくなるからいいとか言って、この時期になると寒くて寝てらんないから比較的リビングにいることが多いんだわ」
「なるほど。きょもさんはボーカルもやってるからこだわりもあるんだろうね。慎太郎くんはコーヒーにして、きょもさんはホットレモンにしようかな。優吾は？」
「ん？俺？」
「うん。リクエストがあれば何か煎れるよ」
「サンキュー。じゃあ俺もコーヒーで」
「はーい」

マグカップを４人分取り出して、コーヒーメーカーのスイッチを押す。
そういえば優吾と２人でこうしてのんびり話すのも久しぶりだなあと思っていると、「A」
って優吾の声。
「ん？」と振り返ると、優吾は気まずそうに頬を掻く。

「この前樹と出掛けてたじゃん」
「…うん、出掛けてた」
「何かあった？」
「え」
「お前の反応分かりやすすぎだわ」

そう言って笑った優吾は「座りな」ってキッチンにある椅子を引いてくれる。
「ありがとう」と言って腰掛けると、優吾はこぽこぽと音を立てるコーヒーメーカーを見つめながら口を開く。

「樹も分かりやすい方だから、多分何かあったんじゃねーかなって。まあ俺の予想ね」
「…うん」
「嫌なことされた？」
「ううん」
「そっか。それならいい」

そう言って背中を向けた優吾の、あの日の掴まれた手と後ろ姿を思い出す。
思わず無意識に伸ばした手は優吾のニットの裾を掴んでいて、「どした？」と困ったような顔をして笑う優吾が私を見ている。

「どう、したんだろう」
「なんだそれ。本当にどうした？」
「…分かんない。分かんないけど、なんか」
「うん」
「…嫌われたくないなって」

樹くんと出掛けたあの日、優吾の後ろ姿を見て強烈に思ったのは、嫌われたくないとひたすら思った。嫌いにならないで、嫌わないで。何言ってるんだよお前はって言われたとしても、都合がいいと思われても。でも、でも。今はただ、優吾に嫌われたくない。その一心で掴んだ私の手を、優吾はそっと握りしめてくれた。

「あるわけねーだろ」
「…うん」
「昔も今も、俺にとってのAは変わらないし変わるはずない。だから安心しな」

ぽん、と頭に乗せられた優吾の手。彼の手はいつも魔法がかけられているかのように、不思議と安心出来てしまう力を持っている気がする。
「ありがとう」、そう言ったら優吾は柔らかく微笑んでくれて、その笑顔は私をひどく安心させてくれた。