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「さっきの人だけど」
「あ、さっきの人はその…前に付き合ってた人の彼女っていうか…」
「ああ…。前から会ってたの?」
「いえ、全然。彼と別れてからは初めてです」
「なるほどね。…ねえ、これ開けてみてもいい?」
「あ、はい。どうぞ」
松村さんが開けたのは私が買ったケーキが入っている箱。慎重に箱を開けた松村さんは、「うん。大丈夫みたい」と一言。よかった、落としちゃったけれどケーキは無事らしい。
「にしても結構買ってるけど、これ食べきれるの?」
「小さいから大丈夫ですよ。一応1人2個まで食べれます」
「…いやだからさ、張り切りすぎなのよ」
「でもクリスマスイブですよ?」
「クリスマスイブって大食い大会だったっけ?」
お互い目を合わせて、なんとなく笑う。
そうだ、早くご飯を炊かなくちゃ。材料も冷蔵庫にしまわないと。ああ、まずは手を洗わなくちゃ。蛇口を捻ろうと手を伸ばす。でも、私の指先は震えていて、あれっと苦笑いをした時にようやく気づいた。
怖かったわけじゃない。…はず、なのに。
じ、と立ったまま動かない私を不審に思ったのか、背後で松村さんの声がする。
多分、どうかした?と聞かれた気がする。
ぼうっとしていたせいで聞いていなかったから、私は聞き直そうとして後ろを振り返った。…ら、松村さんはすぐ目のまで来ていて。私の指先を見ると、松村さんの白く綺麗な手が私の手を取ってそっと握りしめる。
「…昔、留守番することが多くて、心細い時によく祖母にしてもらってた」
そう言った松村さんの声は、昔を懐かしむように優しい声をしていた。
男の人とは思えないくらい綺麗な手。美容師の方はシャンプーやカラー剤で手が荒れやすいから大変だとネットの記事で見たことがあったけど、松村さんの手はまるでそんなのお構いなし。
ひんやりしているように見えるその手は確かに温かくて、思わず溢れそうになる何かをぐっと堪える。
「大丈夫」
「っ、」
「…多分、俺も。Aさんなら大丈夫」
含みを持たせているかのような言葉が気になった。でも、それよりも松村さんに名前を呼ばれたのは初めてで、戸惑いながらも見上げた松村さんの表情は、まるで何か決意を秘めたように強くて、それでいて柔らかい。
だから私もそれが一体なんなのかは聞かずに、ただその温かい手を見つめながらうなづいた。
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作者名:りく | 作成日時:2021年12月23日 21時