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「……怖かった。何も言えなかった。大丈夫だからって上に跨るあの人を、今も思い出して吐き気がする」
「………はい」
「女性は苦手だ、昔も、今も。知らない誰かに向けられる好意も、好かれる理由が分からなくてむしろ怖い。…特に最近は店の外でも会おうとしてくる客にうんざりして、閉店した後も待ち伏せされて家まで特定されかねないからホテルを転々としてたってわけ」
「…はい」
「…母親かって言ったけど。心配かけた。ごめん」
「ごめんなんて、そんな謝らないで下さい。ただ、元気でいてくれたならよかったです」
「…目線がどうしても母親なんだよな」
松村さんが小さく笑ってくれて、ようやく私も安堵する。
それと同時に、この人は今までどれだけ大きなものを一人で背負っていたのだろうと思う。
一度抱えてしまったトラウマは、そう簡単に忘れられるものではないし、かと言って誰かに話せるような、そんな単純なものでもないとも思う。
松村さんは優しい人だから、きっと誰にも言わずに全部一人で抱えていた気がする。
彼は人の気持ちに人一倍敏感。だからこそ、傷つきやすい。傷つきやすいのなら尚の事私は、
「味方です、私。松村さんの」
そう呟いた私に、松村さんは肩から頭を離してわたしを見る。
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作者名：りく
| 作成日時：2021年12月23日 21時
