ロゼッタ２ (ページ30)

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「…なかった」
「…え？」
「……。俺がいない間、何もなかったって聞いた」
「何も…って」
「何もなかったのなら、いい」

ふっと吐き出されたため息に、疲労の色が滲んでいる。ように見える。
何もないってなんだろう。

何もない？そんなわけがない。
この三日間がどれだけ長く感じたことか。この三日間が、どれだけーーー

「どれだけ心配したことか……なんて、言いたくても言えないですよ」

その理由は至ってシンプルな答えだった。
嫌われたくない。
余計な言葉を口にして、松村さんに嫌われるのを避けたかった。
せっかく仲良くなれたのに、余計な世話だと突き放されるのが怖かったから。

「ちゃんとご飯食べてるのかな、とか、ちゃんと眠れてるのかな、とか」
「……あなた俺の母親なの？」
「違いますけど、本気で言ってるし思ってましたよ。松村さん見ない間に痩せてるし、疲れてるし、もう隈だって出来て……って、」

尻すぼみになって、ようやく松村さんと視線が絡んでいることに気付く。
はた、と見つめる松村さんは、今何を思いながら私を見ているんだろう。

「不思議なもんだ」
「え？」
「これだけ同じ距離にいても、嫌な気持ち一つ湧いてきやしない。同じ異性だってのに、もう少し近づきたい、近づいてみたいとすら思う」

何が。何がどう違うってんだろ。

松村さんはそう言って、ゆっくりと立ち上がり私の方へ歩み寄る。