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「よし、」
ピカピカになったシンクに満足していると、先に作業を終わらせていた松村さんが私を振り返る。
「終わった?」
「はい、終わりました」
「お疲れさま。部屋の片付けはいいの?」
「いつも掃除はしてますし、そんなに物も置いてないので大丈夫です」
「そう。じゃああとは慎太郎が起きてきてからでいいか」
ふわあ、と小さく欠伸をした松村さん。
「徹夜ですか?」と聞いたら、「気になってた本を読み始めたら夢中になって、気づいたら朝だった」との事。気持ちは分かります。私も気になったら時間よりも内容が気になって集中してしまうタイプだから。
優吾とジェシーくんも大方掃除が終わったみたいで、二人とも洗車に行ってしまった。
どうしてもついて行きたいジェシーくんに、「お前ただ見てるだけじゃん」って不満を口にしながらも一緒に行くあたり、優吾もジェシーくんが可愛いんだろうなあ。
そんなわけで、今リビングでココアを飲みながらひと息つく私と、コーヒーを飲みながら黙々と本を読んでいる松村さん。
慎太郎くんはまだ眠っているようで、あれから暫く経つけれど起きてきそうな気配はない。
もしかしたら朝方まで起きていたんだろうか。
さすがに起こすのは気が引けるし、もう少しして起きて来なかったらノックはしてみよう。
そんなことを考えていると、パタンと本を閉じた音がする。
「あー…さすがに目がやられる」
「お疲れさまです」
「それ何度目よ」
「すみません」
苦笑いをする松村さんにそう返すと、何度か瞬きをした松村さんは今度こそ大きな欠伸をした。
「そういえば慎太郎から聞いたけど、正月もここにいるんだってね」
「あ、はい。特に行くところもないですし、今日は慎太郎くんたちと夜ふかしをしてゲームをする予定なんです」
「学生のノリ方だよ、それ」
「確かに。でもありがたいです。気を遣わせてしまってるのが心苦しいですけど」
「考えすぎじゃない?楽しいなら楽しい、で済ませとけばいいんだって。少なくとも慎太郎は楽しいと思うからやってるんだと思うよ」
「…そう、だったらすごく嬉しいです」
「そうそう。そうやって素直に喜んどきなさいよ」
ふわ、と松村さんのやわらかい表情にどきりとする。
それは最初に出会った美容室での接客よりも。この家でしばらくお世話になると話した時の「場合によっちゃ出ていく」と言われたあの冷めた表情を忘れてしまいそうなくらいの、あまりにも優しい顔。
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作者名:りく | 作成日時:2021年12月23日 21時