ロゼッタ２ (ページ1)

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「きょもは帰らないよ」
「そうなの？」
「うん。俺と北斗と樹は毎年正月に帰ってる。ジェシーもかな？髙地は親御さんが海外にいるから残ると思うけど、今年はどうだろうね」
「…そっか」

じゃあもしかしたら、家に残るのは私を含めて３人もいるんだ。慎太郎くんは前に家族とは仲がいいって言ってたから帰るんだろうなと思ってたし、みんな帰るのかなと思ってたから、一人じゃないんだと思って少し安堵してしまう。

「Aちゃんは？帰らない？」
「ああ、私は…うん、帰らないよ」

濁すような言い方になってしまったせいで、慎太郎くんは首を傾げた。
「…あのね、」と始めた私の昔話。

私に帰る場所がない。
いや、もっと言ってしまえば、私を育ててくれていた父は私が社会人になる前に病気で亡くなっている。
もちろんお墓参りは毎年言ってるけど、今の私には実家がない。とは言え一応母はいる。いると言っても私が小さい頃に離婚していて行方知れずというやつだし、私たち家族よりも新しい家庭を選んだ母に恨みこそなくても興味はない。
連絡が来たこともなければ連絡をしようと思ったこともない。
でもそれでよかった。その分父が愛情を持って私を育ててくれたのは事実だし、私はそれで満足しているから寂しくないといえば嘘になってしまうけれど、それでいい。

「なんて、ちょっと暗くなっちゃったけど。そんなわけで帰らないんだ、私」

なるべく明るく、けれど長々と話してしまったことに申し訳なさを感じて苦笑いを浮かべていると、じっと私を見て話を聞いていた慎太郎くんが何かを考えている様子だ。
なんとなくそわそわしてしまってマグカップを触っていると、「決ーめた」って慎太郎くんが言う。
顔を上げて慎太郎くんを見てみると、にこっと人懐っこい笑みを浮かべている慎太郎くんと目が合った。

「俺も今回は残っちゃおーっと」
「え？」
「大晦日はゲームして、日付が変わる前に家出て初詣してさ、そのまま日の出見に行こうよ。ね？」
「…でも、慎太郎くんのご家族は慎太郎くんが帰ってくるのを楽しみに待ってるはずだよ。だから慎太郎くんはちゃんと」
「ストップ」

目の前に慎太郎くんの大きな手が視界いっぱいに映る。
びっくりして言葉を止めると慎太郎くんの手は離れていって、そのままポケットへと伸ばされた手には携帯があった。