さよなら、ジュリエット 2 (ページ17)

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いつもなら素直になりにくい私だけど、そんな顔はあんまり見せないで欲しいと思う独占欲が顔を出す。

「Aしか興味ないから」

私の気持ちを知ってか知らずか、そう口にする樹は憎たらしいくらいにかっこよくて。

「てかスカート短くない？明日からパンツにして」
「クリーニングに出してるからそれは無理」
「…戻ってきたら速攻パンツな」

頬杖をついた不満そうな樹にちょっと笑ってたら携帯が震えた。どうやら北斗と合流した辰哉がお店に着いたらしい。

「辰哉と北斗来たって。ほら、ちょっと離れて」
「はいはい」

ちゅ、と可愛らしい音を立てて離れた樹。唇を抑えているうちに、スーツ姿の辰哉と北斗がやって来る。

「お疲れ～って、Aどうした？」
「…なんでもない」
「どうせ樹だろ」
「俺？別にただキ」
「何でもないの！」

樹の口を右手で塞いで二人にメニューを渡す。
…大丈夫、まだ気付かれてない。
ほっと胸をなでおろして樹の口を塞いでいた手を下ろしたら、不意に樹が耳元に近づいてきて「家行くから」っていつもの台詞。
明日からしばらく会えなくなるのは私だって寂しい。
返事をするみたいに足元に置かれている樹の手をそっと握ったら、ぴくりと揺れた樹の前髪。

後にも先にも、小さなことにも反応してくれるこの人がずっと隣にいてくれたら嬉しい。
私の初恋は伝わることなく終わっても、この恋だけはきっと終わらない。
そう信じてやまないのは、私の手に重ねてくれた手がひどく優しいから。

*

それから一年後の春、樹と私は結婚式の前に入籍届を提出した。
必要な二人の保証人の欄には、一児の父になった辰哉と、彼女と上手くいっているのかすっかりまるくなった北斗の名前。

「嫁に出すみたいでイヤだ」なんてまるで父みたいなことを言い出す辰哉も、「絶対に泣かせるなよ」って心配性な北斗もあの頃と何一つ変わらない。
変わったことがあるとしたら私の名字と帰る場所。

「愛してるって陳腐な台詞だよな」
「言い慣れてそうな樹が言う？それ」
「さすがに重たい言葉は言ったことない」
「ふーん」
「なに、言って欲しいの？」
「ねだって言われる台詞じゃないでしょ」

私が強請らなくても言われる日はきっと、来る。
三ヶ月後に着るウエディングドレスのカタログ雑誌を拡げながら、いつか来るその日を夢見て膝の上に頭を乗せる樹の髪をそっと撫でた。