忘れ恋 Ⅱ [黒] (ページ12)

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「ちょ、そんなに息を切らしてどうしたの？」
「走って……きたから……」
「変な奴でもいた？」
「違うの、そうじゃなくて…待ってるかなって、思って」

一瞬眉間にシワを寄せた雨。けれどすぐにそれは消えて、「え？」と不思議そうな目をする。

「はあ……ただいま！」
「おかえり」
「…まあ、その。雨を待たせてるから走っちゃった」

はは、と笑うと雨は分かりやすく目尻を下げた。多分嬉しいって思ってる顔だ。
雨は「おつかれさま」と言ってくれたから、私も「ありがとう」と返して靴を脱ぐ。
今日のご飯は何かなあなんて呑気に考えて雨を通り過ぎてリビングに行こうとすると、突然雨が私の手を掴んだ。
なに、と言う前に見上げた雨は怪訝そうに私の手を見ている。

「…雨？」

名前を呼ぶと雨はゆっくりと顔を上げて目線を私に移す。
…その表情はさっきとは違い、なんだか少し怒っているようで。