夜を呑む (ページ5)

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「深澤先輩にお願いがあります」
「いいよ。なんでも言ってみて」
「私を女にしてください」
「………え？」

さっきまでの余裕はどこへやら、深澤先輩はきょとんと目を丸くしている。
その反応を見る限り、多分こう言われたのは初めてなんだろうなと思ったら嬉しくてたまらない私はおかしいだろうか。

「…あの、Aちゃん？意味分かって言ってんの？」
「はい、分かってます」
「付き合うんじゃなくて？」
「私は先輩のコレクションに入るつもりはないです」
「コレクションって」
「どうせいつか元カノになるのなら、私は先輩に女にして欲しい」
「……本気？」
「本気です」
「傷つくのはAちゃんだよ」
「構いません」

深澤先輩は視線をさ迷わせて、私を見る。
断られるかもしれないという不安はなかった。むしろ断られないという確信があった。

だって深澤先輩は優しいから。

「…後悔するなよ」

ほらね、やっぱり優しい。
深澤先輩は優しすぎる。求められたらきっと応えようとする。
それが深澤先輩の優しさであり残酷なところだということを、果たして先輩は分かっているんだろうか。

古びた建物は初めて入る、いわゆるラブホというものらしい。
制服を着てるとまずいからって深澤先輩に渡されたのは、先輩が制服の中に着てた赤いパーカー。制服の上からパーカーを羽織ると、一気に深澤先輩に抱きしめられているかのようにいい匂いがする。
深澤先輩はサボる用にいつも持ち歩いているらしい上着を着て、二人で手を繋いで一番安い部屋に入った。

ここがどんな場所なのかは知らない。ただ、これからすることだけはなんとなく分かる。
先に部屋に入り僅かに漏れる夕陽を遮断するような真っ黒いカーテンを眺めていると、後から入ってきた先輩が私の肩に手を置いて振り向かせる。黙って先輩を見上げると、「いい目してるね」って笑った先輩の顔がゆっくりと近づいてきて、私は目を閉じた。

重なった唇は柔らかくて、それはすぐに剥がされる。けれど二回目に重なった唇からぬるりと舌が入ってきて、そこからの記憶があまり、ない。