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「ずっと家にいたの？」
「今日？買い物には行ったけど、それ以外はずっといたよ」
当たり前でしょと言いたげな大我。…てっきり。てっきり大我も同じだと思ってた。私のいないところで別な異性と会って、違う香りをつけてくるんだって。そう思い込んでいただけに驚いた。それと同時に胸がざわつく。
「…ごめんね」
「ん？なにが？」
「連絡しなかったから。これからはちゃんと連絡する」
一人家で待っていた大我を想像したら、途端に胸の奥が痛み出す。
この人を一人にしちゃいけない。何故か本能がそう告げる。そう思うのは、ちゃんと連絡するといった私を見る大我の目に、寂しげな色が見えたから。
「いいよ。仕事にしろ友達にしろ、Aが大切だと思うことを優先すればいいから」
「……うん」
「よし、じゃあもう帰ろ？」
綺麗に口角を上げて右手を差し出してくれる大我に、私は一抹の不安を感じた。
今の言葉は、決して優しい言葉じゃない。
君が大切だと思うことを優先すればいいから。つまり、俺はいちいち口を出すつもりもないし、俺には関係ないから。と線引きをされた気がして、『じゃあどうしてそう感じて不安になる自分がいるのか』が今の私には分からない。
「A？」
「あ…うん」
名前を呼ばれ、慌てて大我の手を取る。
彼と私の関係性なんて名前すらつかないことを不安に感じるなんてどうかしている。
私たちの関係性は、お互いに都合がいいからだけなのに。
不安なんてきっと気のせいだ。
掻き消すように大我の手をぎゅっと握りしめると、「んー？」って大我は優しい目をして振り返るから少しだけ泣きそうになった。
❇︎
こうして大我との生活に慣れて来た頃、珍しく洗面台で並んで歯磨きをする朝があった。
「珍しいね、今日はお出かけ？」
「まあそんなとこ。本当は行きたくないんだけど、片付けなきゃいけないことができちゃって」
「そうなんだ。頑張ってね」
「ありがとう。あ、今日の夜は外で食べよ。後で連絡する」
歯磨きを終えて髪をセットして、スーツのジャケットを着直した大我に私はうなづく。
「連絡待ってるね」
「うん。待ってて」
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作者名：りく
| 作成日時：2022年3月6日 18時
