Feather (ページ28)

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田中くんにそう言われたら、彼女たちだって引き下がるしかない。
「行こ、」と踵を返していく彼女たちの後ろ姿を見送ったあと、「どうしたのAちゃん。誰か探してんの？」って田中くんが私を見る。

「探してたよ、田中くんのこと」
「え、俺？珍しいね、Aちゃんがこっち来てくれたの初めてじゃない？」

そう言って笑う田中くんはいつもの田中くん。
…だけど、

「ちょっといい？」

田中くんの目を見てそう告げてから背中を向ける。さすがにここじゃ話しにくいし、色んな人達から向けられている視線が痛い。

「お、今日のAちゃん積極的」

後ろをついてきてくれている田中くんがそう茶化す。けど、なんとなく感じてる違和感。
何事もないように振る舞う田中くんなのに、本当になんとなく、何かが違う。

次の授業が始まるまであと10分。
そこまで移動も出来なくて、入れたのは誰もいない美術室。

「俺のこと探しにくるなんてどうしたの」
「…どうしたの、は私の台詞だよ田中くん」
「んー？何のこと？」

美術部の人が描いたであろう油絵を見て、「すげぇ」とあまり興味のない反応を口にする田中くん。

「無理には聞かない。田中くん、そういうの言葉にするタイプじゃないと思うし」
「さあ、どうだろうね」
「…田中くん、」
「そういえば昨日ミケにあれあげたよ。なんだっけ、あのおやつ。ちゃおチュールだ」

「すげー食いついておかわり強請られた」って笑う田中くんが、どうしても遠く感じる。

「本当に。…本当に、怪我とかしてるわけじゃないんだよね？」
「俺？怪我なんかしてないよ」
「…わかった」

多分これ以上私が言ったところで聞きたかった答えは出てこない。話を打ち切るかのように予鈴が鳴って、「呼び出してごめん、私戻るね」と美術室を出ようとした。

「………何が、分かんの」

乾いた笑いのようなものが混じっているのが聞こえて振り返る。
田中くんは私に背中を向けたまま、窓の外を見つめている。