【QlK】灼熱でも朽ちない愛を【短編集】

朽ち果てるより先に熟れろ ページ49

そんなこんなで、彼の不注意によって始まったこの時間は楽しいものだった。

「あー、もう終わっちゃうね、夏休み」
「課題終わった？」

いつも溜め込んでしまう課題を今年は余裕を持って終えられた。それは、毎日部活終わりを図書室で2時間以上勉強して過ごしているから。

「あ、俺現文の課題の答えなくしたんだ」
「大変じゃん、あとで送る？」
「おっ、ありがとう助かる」

夏休みの終わりはいつだって憂鬱だったけれど、今年はとくべつその気持ちが大きい。

「須貝ー！」


野球部の集団が須貝くんのことを呼んでいる。

それは、この時間が終わることを意味していた。


「須貝くん、頑張ってね」
「……おう、Aも」

彼は手を振って走っていった。笑顔の眩しさが、まぶたの裏に焼き付いてしまったように消えない。


「おっ須貝くんじゃん〜？」
「須貝くんって呼ぶな、気持ち悪い」
「は？あの子にそう呼ばれてニヤニヤしてたくせに」


なんだか目を離せなくって、ずっと彼らを見つめてしまう。彼が溶け込んでいった野球部連中が肩を組んで騒いでいる姿が、小さくなっていく。


「ああもう、うるせえ！」


ああ、嫌だなあ。楽しくて嫌な夏だった。

こうやって遠くで見つめているだけじゃあ、もう満足できないことに気付いてしまった。欲張りなわたしを恋と共に取り出してしまった。

終わってしまうのに。



「てか須貝、やっとAさんと付き合ったん？」
「そうならそうとはやく言えよ〜」
「ちょっとお前ら黙れ、付き合ってないから！ていうかAさんて気安く呼ぶな！」
「は？付き合ってないならいいだろ」



恋が始まったのは、果たしていつだったのだろう。


「だーっもう！付き合えてねえけど好きなんだよ！」


この愛が染み出したのは紛れもなくこの夏であろうが、灼熱でも朽ちない愛を生んだのは、きっと、彼のほうだったのだ。


「恋する須貝面白すぎるな」
「……はあ、なんでもいいけどAの前で変なこと言うなよ」
「大丈夫、鍵無くしたのが嘘だったとか言わないから」
「何その話、俺知らない」
「俺も知らん」
「お前ら須貝のストーリー見てないの？面白かったのに」


夏の終わりと共に、ふたりの時間が終わるだなんてありえない。

「嘘も方便ってやつだよな」

晴天の下、みんなでひとりを笑い飛ばしながら、誰もがふたりの恋路を応援している。部活も友情も恋も、すべてを凝縮したような煌めく夏の1ページだった。



『灼熱でも朽ちない愛を』end

あとがき _book ＋続編！→←離れても熱にぶつかるから

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す