夏の恋は記録的な熱さを誇る ページ47
「Aは明日も部活ある?」
「んー、明日は休み」
並んで歩いてバス停に着いて、そう聞かれた。バス停は同じだけれど乗るバスは違うので、もう残り数分しか一緒にいられない。
「じゃあ次会えるのは月曜日か」
……本当は、月曜日なら、もっとはやいバスでさっさと帰れる。バス停には、それを裏付ける時刻表が貼られている。須貝くん、お願いだから気付かないで。
「そうだね。でも、自転車で帰るんでしょ?」
「あ、確かに。家に予備の鍵あるしな」
でも、はやく帰りたい気持ちより、須貝くんとまた帰りたい気持ちの方がずっと大きい。恋心はもうすっかり手元まで戻ってきていた。元々抑えきれていたわけじゃなかったんだろう。
気にしない努力をしていただけで、気持ちは消えてなかった。好きになるのを諦める決心をした頃には、とっくに好きだった。
「まあでも、バス停まで自転車押して歩くからさ」
だから、須貝くんとこんなに普通に話せているのが自分でも不思議で。
「だからまた月曜日も一緒に帰ろ」
「……え、いいけど、なんで?」
誰にでも優しくて明るくて、とにかく人当たりの良い彼がわたしをこんなに見てくれているのも、不思議で。
「んん、なんでって言われるとなあ」
わたしが乗る予定のバスが見えて、数時間前はあんなに恋しかったのに、いまはすこし憎く思えた。
「まあ細かいことはいいじゃん、月曜日!約束だからな!」
「えー、じゃあ月曜日ね」
ICカードをかざしてバスに乗り込む。空いてる席を見つけて座ると、窓の向こうで須貝くんが大きく手を振っていた。わたしは照れくさくて控えめに返した。
好きの昂りを思い出したら、止まらない。
浮ついた気持ちで家に帰ってインスタを開くと、須貝くんがストーリーを更新していた。暇だからひとことやるから押して、と無難な内容で、今までの私だったら何も考えずに押せたのに。
「気にしてるのこっちだけなんだろうけど」
さっき、あんなにかっこいい笑顔を見せられたから、それが脳裏に浮かんじゃって、長押しをして止めて考えてしまった。
……というか、投稿後数秒で見ちゃってない!?
例えようのない気まずさと、申し訳なさと、恥ずかしさが押し寄せてくる。
押し寄せてくるけど、まあ、普段は押してるわけだし、気にせず押そう。そして忘れた頃にまた彼のストーリーを覗いてこっそり確認しよう。
思い出した好きは止まらないけど、止めない。
ぶり返した想いが膨らむのに時間は要らなかった。
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時