光を追うには淡すぎる ページ44
「あ、福良さんもう帰りますか?」
「そろそろ帰るよ」
乾が言っていたようになんでもないただの平日である12月25日が終わりを告げようとしていた。気分が乗ればスーパーに寄って売れ残ってしまったチキンかケーキを買うつもりだった。
「ちょっと待っててください!」
Aに帰るのを引き止められるなんて、思ってもみなかった。大方仕上げてしまいたい仕事の確認だろうけど、俺がAに対して抱える気持ちは中学生くらい淡いものだから、すこしでも接点が生まれれば嬉しいと感じる。
「福良さん、予定ありますか?」
すこし待つと、ふわふわのマフラーを巻いた彼女が現れた。帰り支度を済ませたようで、仕事の確認なんかじゃ、ない。
「よければイルミネーション付き合ってください!」
衝撃すぎて、うまく返答ができなかった。まあ、後になって冷静に考えたところでうまく返せる自信はないのだけれど。だって彼女を前にした俺のメンタルは中学生の男子と同然だから。
「わあ、綺麗!」
20数年の人生で見た中でいちばん綺麗だと思った。
電飾も、彼女の瞳も、笑顔も、なにもかも。
まあ、俺が突然好きな子にイルミネーションを誘われたカラクリは俺の最寄り駅近くで開催しているから、というだけだったんだけど。それすら偶然じゃなく奇跡だと運命なんだと定義付けたくなるほどに幸せだった。浮かれていた。
「あ、ここからお金かかるみたいですね、残念」
「ん、行かないの?俺はいいけど」
誘導員が見えて足を止める彼女を不思議に思う。イベントごとは好きそうだし、最寄りだからと俺を誘うくらいの行動力もあるのに。
「中入ると綺麗だろうなあとは思うんですけど、こういうのって結局、遠くから見てるくらいがちょうどいいのかなって」
Aと話すのは楽しいけれど、話しかけて嫌われるのは嫌だし、この距離のままでいいのかも。
「……た」
確かにね、そう言いかけて口を噤んだ。
「それは、嫌だなあ」
「え?」
彼女は俺を見上げて目をぱちくりとさせた。瞬きをする度に瞼が何色にも輝くのが、なぜか俺の背中を優しく押した。
もっと、もっとこの輝きを知りたい。
「よし、中行こう!俺奢るし」
「えっなんで、ええ、ちょ、手」
彼女の手を取って強引に歩き出す。
「俺のわがまま付き合ってよ」
もう、人生でいちばん綺麗なものを脳裏に焼き付けたから、それでいいのだ。
遠くから見るのは、もうやめだ。
『奇跡を乞うにはぬるすぎる』end
灼熱でも朽ちない愛を _sgi→←奇跡を乞うにはぬるすぎる _fkr
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時