奇跡を乞うにはぬるすぎる _fkr ページ43
「ねえ乾」
「はいなんでしょう」
Aは、隣に座る乾と仲が良い。いや、逆か。仲が良いからよく隣に座っているのかな。
「今日って12月25日だよね」
「そうですね、まあただの平日ですけど」
彼女の言葉に釣られて、ちらりとカレンダーを覗く。そして、乾の冷たい言葉に現実に戻される。クリスマスだなんて仕事には関係ないのだ。俺がAを好いていたってAには関係がないように。
「乾冷たい」
「朝から何度も聞かされてたらこうもなりますよ」
朝から何度も、だなんてさっき外部での会議から帰ってきた俺への当て付けか?俺も朝から何度もAと不毛な会話をしていたかったのに。
「あーあ、クリスマスくらい彼氏と楽しみたかったな」
彼女の口から発せられる“彼氏”という響きがドクンと俺を揺さぶる。……数ヶ月前に別れたあの男のことをまだ引き摺っているんだろうか。それとも、新しくできた彼氏の話をしている?
「彼氏できたんですか」
できれば自分の口で確認したかったのに、乾が聞くから、そりゃあ聞き耳立てちゃうよね。さっきまでは耳に入ってきてしまうのを仕方なく迎える気持ちだったけれど、ここからは違う。耳をそばだてて、音を真剣に誘い込む。
「うわ、乾わたしのこと舐めてない?」
「え、ほんとに?」
乾を敵視していたのはお門違いで、敵はもっと遠い場所にいたということなのか。そうだよな、Aの彼氏候補が俺の目の届く範囲で収まるわけないのに。
「……まだいないけどね」
その言葉に、ほっと胸を撫で下ろした。でも、乾が彼氏へと昇格する可能性もあるのかと考えると、またすぐに悩みが生まれる。
「はは、やっぱりそうですよね」
「え、やっぱりってなに!?」
あっはっは、とふたりで楽しそうに笑っている。
俺も話したい。間に入って嫌われたとしても、なにもせず足跡を残せずに去るよりはまだいいのかもしれない。……いいかな、控えめになら、話しかけても。
「ほらA、乾を困らせないの」
……はあ、なんだ自分。なんなんだこのポジション。俺はAの兄か母かなにかなのか。
「そうですよAさん」
「あーもう乾、福良さん味方につけるのはずるいって」
福良さん、困らせてないですよ。
福良さん、そんなこと言わないでくださいよ。
そうやって俺に向かってなにか言えばいいのに。勇気をだしてふたりの間に割り込んだって乾に向かい続ける彼女に、心が折れてしまいそうだ。
嫌われないけど、見られてない。
光を追うには淡すぎる→←罰ゲームのおかげ _fkr/kchan
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時