淀むほどの幸せは一匙ずつ ページ41
「なにか手伝いましょうか?」
わかっていたことでも、最寄り駅で共に降りるとか、玄関に靴が二足並ぶとか、些細な部分で君を感じてこっそりテンションが上がった。いまだって、冷蔵庫を覗く僕の背中に君の声がぶつかるだけで、心が踊り出す。
結局、なんでもしてあげたくなってしまうとか、太陽に逆らえないだとか言っていても、与えているものより与えられるもののほうが多いのだ。
「食べられないものはある?」
それは、僕がAにどうしようもなく惚れているから。
たとえば仕事の話ならば、流石に与えているもののほうが多い。物理的な話でもそうだ、別に気にしているわけじゃないけど貰ったものより与えたもののほうが多い。
僕がAに惚れているからこそ、もたらされている感情が確かにあるのだ。たぶん、そういった感情を君にもたらすことは僕にはできない。だからプラスマイナスは大きく傾く。
「え、うーん、あ!シナモンが苦手です」
「っくく、家にはないから安心して」
実家から送ってもらった野菜を適当に切ってお肉と炒めて、豆腐とわかめの味噌汁を作ってとろろ昆布を入れて……本当にこんなものでいいのだろうか。
もちろん、自分ひとりで食べるのならば“こんなもの”なんて評価じゃなくなるくらいにはきちんとした料理なんだけど、人に振る舞うとなれば話はがらっと変わってくる。
「漬物食べられる?」
「え!河村さん漬けてるんですか」
「いや、実家から届いたやつ」
「食べます食べます!やったあ!」
赤いカブをらっきょう酢で漬けたやつを冷蔵庫から取り出して、先程作ったものと白米と一緒に食卓に並べる。そうだ、柿も送られてきていたし、気が向けば後で剥こう。
うん、無難。僕のものさしで見れば普通以上。
「うわあ、美味しそう」
どの箸を使わせるべきか、どのコップに麦茶を注ぐべきかとくだらないことで悩んでいる最中で、Aがそう声を上げた。
「至れり尽くせりってやつですね!」
やっぱり、有り合わせで作った料理に名前なんてないけれど、有り合わせで巡り会えたいまには幸せというでっかい冠をかぶせたってバチは当たらないんじゃないかな。
なんて、僕には大きすぎる幸せを一匙ずつ、大切に大切に噛み締めるんだ。
いつか大きな太陽に飲まれてしまうだろうから。
でもいつか、僕だって伝えたい。
君がどうしようもなく好きなんだ、と。
君のせいでこんなにも幸せなんだ、と。
『有り合わせの幸せにありついた』end
罰ゲームのおかげ _fkr/kchan→←太陽に照らされ流され惑わされ
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時