夢物語の主要登場人物:俺 _kchan ページ5
「就活嫌だ!」
コーヒーを飲みながら、文句を聞く。インスタ映えするカフェとか言われて連れてこられたのに、写真なんか撮らずにAはパクパク食べ進めている。
「もうお嫁さんなりたい」
「お嫁さん?」
想い人から発せられる結婚願望に似た発言。思わず聞き返してしまう。随分と彼氏はいなかったはずだけど、もしかしていい感じの人がいたりするのだろうか。
「そう、誰かに永久就職したい」
口ぶり的に彼女の言った 誰か に当てはまる誰かがいるわけじゃなさそうだ。それなら、
「黙んないでよ、わかってるから夢物語だって」
俺が考えていると、彼女が手を止めて苦笑いしてきた。
「……いや、別にそう思ってないよ俺」
だからきちんと否定を返す。
「どういう人がいいの?」
「それ聞いてバカにするつもりでしょ」
俺が勇気を振り絞って尋ねても、教えてくれない。
「しないよ、参考程度に」
口が滑った。
「わたしの好みがなんの参考になるのよ」
ちゃんと突いてくる。好きな人の好みなんて一から十まで全部参考になるに決まってるのに、それを伝えるわけにはいかないのがもどかしい。
「ていうか別にないんだよね、理想像とか」
「え、誰でもいいってこと?」
理想像がない。それは希望なのか絶望なのか。
「いや、そういうわけじゃないけど」
誰でもいいわけじゃないけど、正確な理想が定まっているわけじゃない、そりゃあそうだろうな。俺はAが好きだから理想もそうなっているけれど、そうはいかないだろうし。
「じゃあ例えば俺は?」
ぽかん、と口を開けて目を見開く彼女。……やらかしたか?
俺は一瞬で後悔に押し潰される。けれど彼女はすぐに悩んでいるような声を上げ始めた。
真剣に俺との未来を想像するAか、悪い気はしない。でも、その末に出た結論が、例えば俺にとってよくないものだとしたら。立ち直れる気がしない。
「航平のお嫁さんねえ」
彼女は甘いパンケーキを一口大に切って口に運んだ。Aの口から発せられた 航平のお嫁さん という響きだけで口角が上がってしまいそうになる。
「航平のお嫁さん……か」
彼女はもう一度噛み締めるようにそう発した。ストローに口をつけながら彼女を見上げると、スルーできない変化が目につく。
「A、顔真っ赤だよ」
幸せな未来を想像して顔を赤くしているのならいいな。Aの旦那候補として、俺が彼女の頭に存在し始めたのなら、それで。
『夢物語の主要登場人物:俺』end
愛を贈るからこっち見て _sgi→←芽生えた恋を育て上げて _kwkm
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時