有り合わせの幸せにありついた _kwmr ページ38
「至れり尽くせりってやつですね!」
Aは、僕の向かいに座って目を輝かせた。ほぼ初めて、自分の作った料理が並ぶ食卓に自分以外が座っている。
自炊なんて必要最低限しかしないし、料理が得意だなんて言った覚えがない。言った覚えがないというか、思ったことすらないのだ。
そんな僕が、なぜか職場の後輩に料理を振る舞っている。それも自宅で。
「これなんて料理です?」
Aが僕の家にいる。Aが僕の作った料理を見つめている。Aが僕の前で幸せそうに笑っている。
「有り合わせのものに名前なんてないよ」
……正直、どこを掻い摘んだとしても、どれだけ噛み砕いたとしても、意味がわからない。きっと時間をかけて整理しようとしたってまとまらないだろう。どれも現実にしてはあまりにも妄想チックなのだ。
それくらい、幸せに淀んでいる。
「わ!河村さんだ、お久しぶりですこんにちは!」
事の発端は数時間前。僕が久しぶりにオフィスに顔を出したのがこれらの怪異の始まりだった。
毎年この時期は体調を崩す。無理をしたって周りに迷惑がかかる。そんなことは百も承知なので、あまり活発にならずにいつもに増して消極的に、ここで生きていくための最低限のことだけして過ごしていた。
「もー、痩せちゃったんじゃないですか?」
「こらA、河村さんに絡まない」
だから久しぶりにオフィスに来てふたつの太陽にカッと照らされると途端にどうしていいのかわからなくなる。
「こうちゃんのケチ」
「ケチでもなんでもいいから、打ち合わせの続きするよ」
こうちゃんと、1年ほど前にこうちゃんが連れてきたA。この2人はとにかく仲が良くって、相性がすごく良くて、何かと一緒に動くことが多い。
「はいはい、わかったよオタンコナス」
「オタンコナス!?」
「うるさ、ケチでもなんでもいいって言ったじゃん!」
だからといって、僕には関係ないけれど。
「そこらへんにしときなよ」
2人が仲良く話していても、可愛らしい口喧嘩をしていても、真面目に企画会議をしていても、僕には関係ないのだ。
太陽が照りつける場所から避難してしまえば関係ないとふんぞり返っていられるのに。わざわざ日向に出ていく必要性なんて全くと言っていいほど感じないのに。
「えへへ、ごめんなさい」
僕が止めに入るとへらりと笑って真面目に切り替わるのが、すこし面白くて可愛らしいからついつい眩しがりながら直射日光を浴び続けるような選択をとってしまう。
まろやかな直射日光こそ愛であれ→←選んだ未来はきっと幸せだから
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時