選んだ未来はきっと幸せだから ページ37
「かっこ悪い話なんだけどさ、」
俺は覚悟を決めて、不安な思いを少しずつぶちまけた。俺の話を聞いて優しい相槌を打ってくれているのを聞いているとAの顔が見たくなった。
話している口は止めずに、アウターを羽織って外に飛び出した。タクシーを呼ぶ手間すら惜しくって、がむしゃらに走った。たぶん、彼女も俺が向かってきていることに気が付いているだろう。走りに集中すると、だんだんと言葉がまとまらなくなっていく。
「あんまり走ると転んじゃうよ」
ついにそう言われてしまう。情けない大人でごめん。でも、もうAもきっと大人だ。誕生日がどうとかじゃなくて、もう、きっと、ずっと前から。
「うるさいな、てかもう日付跨いでるよな?おめでとう」
時計も見ずに話し続けてしまったことを申し訳なく思いながらも、自分でも驚くほど雑に祝いの言葉を投げた。
「そんなついでみたいに」
実際、彼女の誕生日のお祝いなんてついでみたいなものだった。もちろん、大事な日だし、生まれてきてくれたことへの感謝は伝えきれないほど大きいけれど。
「Aが子供でも大人でも別に変わんねーの」
今、伝えたいのはそれじゃなくて。今の俺は、もっと根本的な幸せを、愛を、伝える必要があるんだ。息を整えながら彼女の部屋のインターホンを押す。
笑顔で出迎えてくれる彼女を夢見て、通話を切った。
「っふふ、来てくれてありがとう」
数十秒後、夢見た通りの彼女が扉から顔を出した。
「好きなんだよ、ずっと、子供でも大人でも変わらなく」
寿ぐより、愛を叫べ。
「だから……頼む、離れないで」
挨拶もしないで、俺は縋るように気持ちをぶつけた。さっきまで吐いていた不安も、全てはこれが原点だった。
どうしようもなく、君が好きなのだ。
だから、どうしようもなく、悩んでいた。
でも、もう不安の気持ちはない。いつもみたいに彼女を前にして喉元を過ぎた熱さを忘れているわけじゃない。
Aの目も、俺の目と同じように、どうしようもない愛を叫んでいる。だから、この熱さを忘れることなんて絶対できないんだ。熱くて、愛おしいから。
「駿貴くん」
幸せな夢を選ぶ権利を手にするのはきっと不可能だけど、幸せな現実を歩む資格は君とふたりなら手に入れられるかもしれない。
「わたしはね、最初っから駿貴くんしか見てないよ」
もしすこしくらい不幸を味わっても、Aとなら。
『夢を選ぶより夢のような現実を』end
HappyBirthday!
有り合わせの幸せにありついた _kwmr→←夢を選ぶより夢のような現実を _sgi
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時