これがHappy Halloween ページ35
「上手くいったやつはあげる人決まってるんだって」
Aの席の周りに、仲の良い女子が集まり始めた。ほわん、と甘い匂いがして、いつもならひとつお裾分けを期待できるんだけどなあ、と苦しくなった。
だからといってこの場から逃げるわけにはいかないのだ。上手くいったお菓子をあげる人、すなわち彼女の想い人の存在を追うために。
「……ねえ、」
まあ、それがわかったところでなにか手を回そうとか、そいつに勝てるように頑張ろうとか、そういう話に繋がるわけではないけれど。
「ねえ、河村くんってば」
「わ、びっくりした」
彼女の声に思考を手元に戻せば、周りにいたはずの女子がいなくなっていることに気がついた。
「これ」
Aはいつものタッパーではなく、ラッピングを施した、可愛らしいオバケが乗せられているオレンジ色のドーナツを僕に差し出してきた。そうドーナツを……え!?ドーナツ?
「なに、これ」
わけがわからなくって、上手く言葉を紡げない。
「なにって、お菓子決め手伝ってくれたじゃん」
「あ、あれはそういうつもりで言ったんじゃ」
そういうつもりでドーナツが好きだと言ったわけでもハロウィンの話題を振ったわけでもなかった。つまりは、決めてくれた感謝の、お情けのドーナツということだろう。
「ちがう」
震えた声を発したのは、僕じゃなくてAの方だった。
「……せっかく渡すなら、好きな人の好みに寄り添いたいなって思ったの!わたしがそういうつもりで聞いてたの!」
頬を赤らめながら、はっきりとそう言われてあの帰り道とは違う意味で心臓がバクバクと音を立てる。
苦しさとか不安じゃあなくて、緊張とか期待とか、幸せのキャパオーバーの予兆とか、そういう意味を持つ高鳴りだった。
「わたしの好きな人は最初から河村くんだから!!」
彼女の声は大きく張られていて、教室は静まり返った。すこしして、わああっと歓声と拍手が沸き上がる。スマホをこちらに向け始めた人もいた。
……まったく、趣味が悪い。
こんなシーンを動画に収めようとする人も、こんな僕を選ぶ彼女も、こんな事故公開告白で喜んでしまう僕も。
僕が涙を流しながら告白を受け入れる、という内容の動画が色んな人のストーリーにあがって広まって、廊下で知らない人に「告白されて泣いてた彼氏じゃない?」とヒソヒソ話される未来なんて知らない。知りたくない。そんな羞恥耐えられない。
それでも、これが僕の最高のハッピーハロウィンだから。
僕の目尻はじんわりと濡れるのだ。
『Bootiful Halloween!』end
夢を選ぶより夢のような現実を _sgi→←Boo!Boo!Boo!
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時