【QlK】灼熱でも朽ちない愛を【短編集】

高鳴る心臓が理由であり答えだ ページ25

「ほ、他の子？」

わたしがようやく決心したというのに、揺らがそうとしてくるんだ。

「わたしと会う日以外に会ってる子、いるでしょ」

言いたいことを全部言って、君に存分嫌われて、無理だろうけどわたしも彼を嫌って、そうして離れよう。そうすれば、すぐ忘れられるはず。

「……んん？会って職場なんだけど」

首を傾げる彼の目は嘘をついているように思えなかった。彼の巧妙な嘘に騙されてるのかな。無意識のうちに期待して信じて、繋ぎ止めようとしているのかもしれない。


「俺、こうやって休みの日にわざわざ会ってんのAちゃんだけだよ」


でも、本当に他にたくさん相手がいるのなら、わたしにここまで期待させる必要ないだろう。引き止めなくたって、きっと引く手数多なんだから。

「そりゃ始まりがね、ちょっとアレだったから疑われちゃっても仕方ないと思うんだけど、」

慣れない酒を飲んで酔い潰れていたわたしと、仕事で大失敗をして落ち込んでいた拓司くん。出会った日はふたりともぼろぼろだったから、距離なんてなかった。

2回目はきちんと距離がひらいたっけ。行為を繰り返す理由、わたしにはあったけど、彼にはどうだったんだろう。


「俺はAちゃんだけが好きだよ」


……彼にも、あったんだ。

正直、信じきれていない。受け止めきれていないというか、好かれている自信なんてまるでない。でも、どうにも嬉しい気持ちが先行してしまって視界が滲む。

「っそういうの、軽々しく言わないで」

強がってみても、頬に伝うそれの温度は、わたしがいちばんわかってる。目の前の彼だってきっと、気付いて笑いかけている。


「ばか、軽々しく言ってるわけねえじゃん」


滲んでいた視界が閉ざされる。彼の心臓の音が近くにきこえる。背中に回る腕が、いつもよりずっと優しくて。好きな人として抱き締められているのがわかる。

「……心臓めちゃくちゃうるさいね」

彼の背中に腕を回してからかってやる。彼のはやい鼓動が、心地よく響く。彼の熱い心が、じんわり広がっていく。


「てか俺、Aちゃんの気持ち聞いてないんだけど」


涙でとっくに伝わっているはずのそれをわざわざ言葉で求めてくる。これくらいなんてことない。今までの歯がゆさに比べればなんでもない。

「……好きだよ」

彼を見上げてそう言うと、もう一度抱き寄せられる。頬が潰れるほど彼とくっついて、彼の体温を感じる。

「やっば、めちゃくちゃ嬉しい」



『身も心もゼロ距離で』end

家族につく嘘と君に吐くしあわせ _kchan→←身も心もゼロ距離で _izw

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す