短冊には記せない願いごと _kwmr ページ23
※先生×高校生パロ
「みなさんは愛を信じますか?」
授業が終わって、チャイムが鳴るまでの数分。たまに余るこの時間で教科書を閉じた彼の話をゆっくり受け取るのが、たまらなく好きだ。
「うわー!河村先生どうしたんですか」
クラスの男子がそう茶化す。数人からそんな声が上がるけど、河村先生は腹を立てるような素振りも見せずにふっと優しく笑った。ああ、大人だ。クラスメイトとは比べものにならないほど、美しい大人だ。
「今日は七夕ですからね、たまには」
窓の外を見上げながら、笑みを深めた。あいにくの天気だけれど、7月7日の空というだけで急にロマンチックに映るのだから不思議だ。
「じゃあ先生はー?」
今度は女の子から声が上がる。若くて丁寧でかっこよくて美しい先生は、たぶん、いいや絶対、他の女の子からも人気が高い。
「先生って生徒のこと好きになったりしないんですかー?」
踏み込んだ質問が、教室に響く。
わたしは彼女たちのようにこんなこと大声で言えるような度胸は持ち合わせていない。だから、誰かがこうやって彼について探ってくれるのは正直都合が良い。
「うーん、別に生徒や教師を好きになるのは自由だけれど、……ほら、手なんて出したらお縄になっちゃいますからね」
彼は言葉を選びながら慎重に発した。可能性を潰さないでくれるような言い回しは優しさなのか、情けなのか。喜ぶべきことなのか、諦めるべきことなのか。
思わず視線が彼から逸れる。たぶん、わたしの恋は彼に透けている。彼の前での言動のほとんどが強い気持ちによるものだった。それなりに態度で好きを表してきたつもりだ。
“好きになるのは自由だけれど、”
これに繋がる言葉はきっと、“気持ちには答えられない。” だろう。ただ、自由なのだから突っぱねることもしない、できない。でも、結ばれるとは期待しない方がいい。
ああ、本当、美しくてずるい大人だから困る。
でも、こんなところでへこたれちゃいられない。大きな障害があるのなんて、初めからわかっていた。
気を取り直して顔を上げると、確かに彼と目が合った。彼の視線がまっすぐ突き刺さって、逸らそうとしても逃げられない。
「でも、織姫と彦星のように一年我慢するっていうのも、またひとつ信じるべき愛なのかもしれませんね」
河村先生は、わたしを逃がさないままそう言った。
わたしはちょうど、来年卒業する。
『短冊には記せない願いごと』end
リクエストありがとうございました!
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時