何色で紡がれたって君となら ページ21
もう一度昔のようにあの家を飛び出した。今度足を踏み入れるのはいつになるだろう、しばらくはいいや。どうせろくなことがない。
自由の身になったとはいえ、どこに行けば拓朗くんと再会できるのか、皆目見当がつかなかった。
とりあえずあの日と同じようにスーツケースを引き摺りながら、海に向かった。どうしようもなく惹かれていたはずの青が、前よりも煌めいて映らない。
海水浴場として盛り上がっているそこには、たくさんの人がいた。砂浜が熱くて足の裏が痛いとはしゃぐ子供だったり、水着姿で照れ合うカップルだったり。砂を巻き込みながら回るキャスターがもどかしい。
なんとなく、ここにいる気がした。
家はこの辺りじゃないと言っていたし、暑いのが嫌だと嘆いていたから海水浴に来る予感もしない。でも、必死に探せば見つかる気がした。
目を凝らして人を掻き分けるように歩いていく。スーツケースが鬱陶しくて放りたくなるけれど、あのときと同じ音をさせていたら彼が気付いてくれるかもしれないから、離さずに引き摺り続けた。
数分歩いた後、ついに見つけた。
真っ直ぐ青い海を見つめる彼が、そこにいた。青い空と青い海の真ん中で、穏やかな視線を海に注いでいた。
彼の横顔を見ていたら、涙が込み上げてきそうだ。……色々、話したいことがある。聞きたいことがある。紡ぎたいものがある。繋ぎたいものがある。
ひとつ深呼吸をして落ち着いた。
今から赤い宿命を始めるんだから、焦る必要なんてないのだ。ゆっくり話して、聞いて、紡いで、繋いでいけばいいんだ。ああ、なんだか無敵な気がしてきた。
さあ、満開の笑顔で。
「……わ、拓朗くん?」
惚けたようにそう話しかけると、この間よりすこし色の落ちた赤い髪が揺れた。彼の目がかっと開いた。……忘れられていた、なんてことはなさそうだ。
「おー久しぶり、Aさん」
彼の声が届く。彼の笑顔が届く。彼の視線が届く。彼の声が、わたしの名前を呼んでいる。わたしを見ている。
「これから暇?またご飯食べに行こ」
全てに感動して何も言えなくなったわたしに、そう優しく笑いかけてくれた。彼の方から誘いを持ちかけてくれるとは思わなかった。すぐに頷いて、彼の手をとる。
気付けば、青よりもずっと赤の方が好きになっていた。
気付けば、彼を囲む青よりも、彼の放つ赤の方に惹かれていた。
「お腹空いたなあ」
彼はわたしの手をぎゅっと握り返した。
『赤い宿命を信じ抜く勇気』end
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時