悪を抜かれた恋する乙女 ページ12
「ん?いい子のAさんとして来ていいんだよ」
彼はなんてことないように笑ったけど、その発言は今までの悩みを全部かき消すくらい衝撃的だった。航平先生の笑顔はやっぱり眩しくて、優しさが痛い。
わたしの気持ちにとっくに気が付いてるくせに、面倒臭がらずに対応してくれる優しさが好きだ。でも、裏返せばわたしが航平先生を好きだとしても、彼には関係の無いことだということだ。
一生徒には変わらない。何をしても変わらない。
「え、いい子の相手する暇なんてあるの?」
それは、悪い子でも、いい子でも、同じこと。真面目な航平先生が生徒に手を出すだなんて思えない。これからも、きっとそのままだ。
わたしの恋が実らずに卒業を迎えてしまい、泣きながら彼と離れるんだろう。それでも彼は何も変わらずに優しくて、今後も彼の優しさに貫かれる生徒が増えるばかりなんだろうな。
「わざと悪さしてくるいい子を叱る暇があるんだから、ただのいい子と話す時間くらいはつくれるよ」
彼は意地悪そうに笑った。何その顔、初めて見たよ。したり顔というか、企み顔というか。航平先生がする授業では彼をひたすら目で追ってるから、見逃すはずがない。
つまり、彼に惹かれつつも目立った行動も起こさずにのうのうと授業を受けてるような女は一生かかっても拝めない表情だということ。
わたしがいい子のままじゃ、見れなかったんだ。
「そんなに言うならそろそろいい子になってあげる」
だから、いい子のわたしとしてここに来なくちゃ見れない顔も、たくさん見たい。ふたりきりで叱られてばっかりよりも、楽しい話をたくさんして、たくさん聞いて、たくさんの笑顔を見たい。
さっきは恋が実らず卒業するだなんて暗い想像しちゃったけど、そんな想像、現実にさせない。
「航平くんって呼んでいいですか」
一歩一歩、確実に距離を詰めて
「ばか、大人をからかっちゃだめだよ」
いい子として、彼の懐に滑り込もう。
「ちがう、好きな人をからかってるんです」
わたしなりに色んな想いを、期待を詰め込んだ発言だった。気付きたくない彼に、気付いちゃいけないこうちゃんに、気付かないふりをしなくちゃいけない航平先生に、無理矢理こっちを向かせるために。
「……それも、まだ、だめだよ」
彼は、視線をふいと逸らした。わたしの気持ちを否定しない彼は、やっぱり優しい。聞かなかったことにせず、気持ちを否定せず、勘違いをするふりなんてせず。でも、受け入れもせずに。
愛で愛を確かめた夢見る乙女→←愛に貫かれた君見る乙女 _kchan
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ぶっく。(プロフ) - 萊さん» コメントありがとうございます!遅くなってしまうかもしれませんが、第5弾にて書きます!! (2020年12月31日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - できたら「恋煩いは不治の病」のしあわせ曲線歪ませての続きをお願いします。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
萊 - リクエストでtmrさんをお願いします。これからも頑張ってください。 (2020年12月21日 21時) (レス) id: 192c096d22 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» うわーー!確かにちょっぴり焼木杭みありますね!!何度も読んでいただけるのは本当に本当に嬉しいです!長編も頑張ります!! (2020年12月4日 22時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 焼木杭のほうの続きが気になるときに、いつもこの「今夜はふたり祝い酒」を読みに来ます。『そのつもりなの俺は』 がすごく可愛くて好きです。 (2020年11月26日 17時) (レス) id: 4ee84c0e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月7日 4時