【QlK】帰宅から出発まで【ymmt】〈完結〉

一回目の、おかえりなさい ページ7

「おかえりー」

バイトから帰ると、扉の前に何かの本とノートを広げた祥彰がいた。そうか、鍵渡すの忘れてたな。……それにしても、この家で誰かがわたしのことを待っているなんて初めてのことですこしびっくりしてしまった。

「寒かったでしょごめんね、明日合鍵作りに行くわ」


結局、昨日聞き出せたことは 早稲田大学4年生であること、23歳であること、割のいいバイトをしているので生活費などはある程度出せるということ、だけだった。あと、いま見た感じ何かを熱心に勉強してるらしいこと。

まだまだ謎の多い彼だけど、そのうち知ればいいし、1ヶ月暮らして聞けなかったことは聞く必要のなかったことだと割り切ればいいし。あまり気にしていなかった。苗字すら教えてくれなかったのは、ちょっと謎だけど。

「昨日聞けなかったけどさ、Aさんって大学どこなの？こんな遅いのはバイト？」

確かに昨日はわたしが聞くだけ聞いて、順番にお風呂に入ってこの間と同じように寝てしまい、わたしの話はあまりしていない。

朝は祥彰の方が早く出てしまって話せなかったし、わたしたちが話せるのは、わたしたちが共に過ごすのは、2人ともが帰ってきてからどちらかが朝出るまでの時間だけなのだ。

「え、東大……？」

彼の質問に素直に答えると、彼は固まった。単純な驚きじゃなく、口をぽかんとあけながら、いろいろと考え込んでいるようだった。

「どうかした？」

わたしが顔を覗き込むように尋ねると、首を横に振った。なんでもなさそうには見えないけど、彼がそう言うのでそういうことにしておいた。別に深く聞く必要もなさそう、というか、聞かれたくなさそうだし。

「今日鍋にしようと思っていろいろ買ってきたんだけど、苦手なものとかある？」

夜ご飯を用意しようとそう聞いても、彼は上の空だった。まだ何かを考えているんだろう。……この間出したものは全部美味しそうに食べてくれたし、苦手なものは特にないのかな。

再会どころか、進展してます→←はじめまして、はじまるふたり

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す