響く雨の音、届かないわたしの声 ページ41
雨の音が部屋に響く。
膨らんだ想いに耐えきれず、彼に冷たくあたってしまった。どうしよう、嫌われちゃったかな。彼はわたしのことを気にかけてくれたのに、優しく話しかけてくれたのに、あんなふうに接して。
祥彰の傷ついた顔が、視界の端っこに見えた。
それが、脳裏に酷くこびりついて、このまま離れたら後悔すると感じた。
「……ねえ、祥彰」
どれくらい蹲って雨を聞いていたのかわからないけれど、声は上手く出た。
いっそ、想いを吐いてしまえばいいと思った。そうすれば、離れるか離れないかを彼に委ねられる。わたし自身で判断をすることから逃げられる。
自分から振り切ったくせに、急に好きだなんて言われても困るだろうけど、でも、言わなきゃダメだと感じるのだ。
本当に自分勝手なのはわかってる。
嫌ってくれてもいい、ただ、聞いてほしかった。
「祥彰?」
確かに音となって口から漏れたのに、誰にも届かなかった。
嫌な予感がして、手に、頬に、変な汗が滲む。玄関に向かう足取りが段々と遅くなる、彼の靴がないことなんて、見なくてもわかった。
もやっと隠れる祥彰さえ、もう見れないのかもしれない。
わたしの心情に比例しているのか、雨は次第に強さを増す。冬の終わりに出会って、春にはもう既に恋をしていた。想いが脹れて、梅雨には散るのか。泡沫の恋、なんてものじゃない、そんな儚く綺麗なものじゃない。
ふらふらとテーブルに行くと、置き手紙があった。
“頭冷やしてくる”
読みたくなかったけれど、その簡潔にまとめられた綺麗な字を見ればすっと内容が理解できた。頭を冷やさなければならないのはこっちの方なのに、こんなときまで変に優しくて、嫌になる。
出ていくならそう言えばいいじゃない。
鍵も置いてないみたいだし、わたしがいない間に自分のものまとめて持っていくつもりなんだろう。何日か後に、このテーブルに鍵と共にもっと簡素な置き手紙があることなんて、容易に想像できた。
そして、いつの間にか祥彰の心からわたしは追い出されるんだろう。元々住み込めていたのかすらわからないけれど。
どうしても涙が堪えきれなくて、膝から崩れ落ちる。
祥彰がいなくなってしまったこと、もう会えないかもしれないこと、嫌われてしまったかもしれないこと。
何がわたしに刺さったのかわからないけれど、痛くて立ち上がれなかった。否、立ち上がる必要なんてないのかもしれない。
引っ張り上げてくれる彼は、いないのだから。
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ぶっく。(プロフ) - ゆうかさん» 初めまして、コメントありがとうございます!そうやって楽しんでいただけるとすごく嬉しいです…!短編集にて時々書きますのでそちらからぜひお願いします!! (2020年6月11日 18時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか(プロフ) - 初めまして!!!最後まで楽しく読ませて頂きました!!この2人早く付き合えやッッと、ややkoちゃん目線気味で見てましたww素敵な作品をありがとうございました!2人のスピンオフ楽しみにしています! (2020年6月9日 17時) (レス) id: 41b5f36188 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ななおかさん» ななおかさん、ありがとうございます。出会えて幸せ…そう言って頂けて本当に嬉しいです!これからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2020年5月7日 21時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ななおか(プロフ) - 完結おめでとうございます!素敵な作品、ぶっくさんに出会えて心が幸せです(*^^*)次回作とても楽しみにしています!これからも応援しています!! (2020年5月6日 21時) (レス) id: f07a41e0f2 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ゆみさん» ゆみさん、コメントありがとうございます!そこに気付いていただけて嬉しいです、これからもこのふたりはどんどん幸せになります!(?)大好きだなんてめちゃくちゃ嬉しいです…!新作も登録ありがとうございます、これからもよろしくお願いします! (2020年5月6日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作成日時:2020年3月12日 8時