恋のかたちに嵌っていく ページ8
「なにだったら、Aは嬉しい?」
そうして、すこし考えて、すぐのことだった。愛らしい笑顔がパッと咲いたのは。
「よしくん家の鍵?」
僕は大きく頷く。彼女は鍵をぎゅっと握り締めた。大切な宝物を、手の中にそっと閉じ込めているようにも見えた。もちろん、僕の願望という分厚いフィルターがそうさせている部分もあるのだろうけれど。
「も、貰っていいの?」
でも、目を輝かせて僕を見つめるAを見ていると、フィルターをとっぱらったってそんなふうに考えてくれてそうだな、なんて思ってしまう。
「うん、鳥見るのに飽きたら来てね」
「……よしくんのいじわる」
今度は、先程とは違って本当に頬が膨れていたような気がする。可愛い。
「ごめんごめん。いつでも来てね」
僕の家のスペアキーを握ったまま、幸せそうに笑みを深めるA。胸が熱を持ちすぎて痛みさえ感じる。好きの気持ちが止まらない。きっとこれからも変わらない想いでAを見つめ続けるんだろうな、僕は。
「本当は誕生日のときにでもさらっと渡してかっこつけたかったんだけど」
彼女の誕生日はもう1ヶ月以上も前だ。ちょうど仕事がバタバタしていてプレゼントを用意するので精一杯だったあの時期を思い返して苦笑いする。
「よしくんはいつもかっこいいよ」
「……そういうことじゃないんだけど、」
やわらかい笑顔に、なんだか安心した。
「まあ、そう思ってくれるならそれでいっか」
好きの気持ちは負けてないつもりだけど、Aからの好きもたくさん感じる。それが幸せで堪らない。夢みたいな話だ、ほんと。
「この鍵、いつ作ったの?」
「ん?ああ……先週、だったかな。先々週かも」
一瞬、不安げにも見えた目にまた光が灯る。
「そっかあ、わたしのため?」
ああ、そういうことか。僕が過去に誰か他の人に渡していた鍵なんじゃないかと疑っていたわけだ。そんなこと、あるはずないのに。
「今までもこれからも僕が鍵を渡したくなる子なんてAだけだって、わかってるでしょ」
あるはずないと僕は思っていても、Aは現に不安になったわけで。きっと、まだ伝えきれていない愛がたくさん僕の中に存在するんだろうな。
「んふふ、よしくん大好き」
だって、わかっているつもりでも、好きだと告げられれば嬉しいし、
「僕もAが大好きだよ」
わかってもらってるつもりでも、好きだと告げれば、彼女の笑顔はぐんと魅力的になるのだから。
『握り締められた関鍵は』end
捨てられる夢になりたかった _kwmr→←握り締められた関鍵は _ymmt
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年12月29日 21時