鮮やかな笑み割れ時 ページ6
「Aに好きって言われるの、本当にめちゃくちゃ嬉しくって」
頭を上げてほしかったし、そう声をかけるべきだとわかっていた。
でも、わたしは彼の手によって終わらせられる恋をどこか遠くから見つめているような気分になっていて、口を挟むなんてできなかったのだ。しっかり見届けなくては、と変な責任感を抱いてしまって。
「考えたことなかったっていうか、お前のこと友達だって思い込みすぎてて」
贈られる言葉を飲み下していく。駿貴は頭を下げたまま。わたしは、そんな彼のつむじ辺りをぼんやりと見つめたまま。
「A」
目を合わせているわけじゃないのに、なぜだか捕らえられてしまったように動けない。視線さえも動かせないのに、心臓はドクドクといつもよりずっとはやく脈打っている。
「……昨日、好きかもとか、キスしたいとか可愛いとか、あんな状況で言っちゃってごめん」
ああ、終わる。
もちろん、昨日あんなことを告げてしまった時点で、彼の記憶が消えていなかった時点で、終わったも同然だったんだけど。
でも、はっきり、彼の手でこの恋は握り潰される。それがわかって、苦しくて、目の奥がじんわり熱くなる。
「俺、Aが寝てる間、ずっと真面目に考えてたの」
さっきは気付かなかったけれど、顔を上げた駿貴の目の下には似合わない隈が現れていた。……本当にわたしが寝てる間ずっと、わたしのことを考えてたの？
……あはは、もう、それだけでいっか。
大好きな人が、わたしとのことをそんなに真剣に考えてくれた、それだけでいい。そんなに考えて下した決断が間違っているはずもない。振られて、正解なのだ。
「ちゃんと言うから、聞いてくれる？」
今度はわたしから目を合わせた。それが彼への返事だ。
「好き」
昨日も言われたその言葉がやけに沁みる。
恋愛じゃなくて友愛で、別にキスはしたくなくって、境界線を跨いでわたしを求めてくれることなんてきっと、一生なくって。
昨日の夜、一時的な感情だとわかっていても、キスしたいと言われた瞬間に縋るべきだったのか。そんな最低なことを考えては、胸の圧迫感が増していく。
「……昨日で、俺のこと嫌いになっちゃった？」
言わせるだなんて、残酷だ。
「好きだよ」
「っはは、やっぱりめちゃくちゃ嬉しい」
「これからよろしくな」
「は？」
「えっ、だって恋人だろ。もう」
「あ、伝わってない？友愛じゃないし、キスしたいよ、真剣に」
『酔いどれの世迷言』end
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作者名：ぶっく。
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年12月29日 21時
