ぼんやり淡い散り際 ページ4
お酒に濡れたそれを見て変な気持ちを抱く前に、ふっと息を吐いて、お酒をひとくち。だめだ、こんなの塞ぎ込んで、せめて軽いテンションに努めなくちゃ。
「うっわ、急にアホみたいなこと言うじゃん」
「いや、急に変な質問してきたのそっちでしょ」
「あはは、確かにそうだね」
「どしたの、急に」
……急、なんかじゃないのに。
わたしは、ずっと駿貴のことだけ見てきたのにな。やっぱり、そういうことなんだろう、わかってる、わかってた。そのつもりだったのに、やっぱりすこし苦しい。
「A？」
名前を呼ばれてドキリとした。
「んーん、なんでもない」
もう、なんでもない。なんでもないから、はやく記憶を消してほしい。
「ん、そう？じゃあいいけど」
ああ、はやく思い出せ。朝起きて「なんも覚えてねえ」と頭を搔く彼を思い出せ。
その前の晩、彼は何をどんなふうに飲んでいたんだっけ。どんな話をして、どんなペースで……ああ、こんなややこしいことをお酒が回った頭で考えられるはずがない。
いっそ、忘れてしまうために飲みまくってしまおうか。
「A、もしかして俺のこと好き？」
息が止まるかと思った。時間が止まるかと思った。そして、たぶん、ほんとにちょっと止まった。
「好きだってさっきも言ったでしょ」
「……そうじゃなくって、」
ああ、もう、誤魔化せないんだな。
「っふふ、そう、そうだよ。キスしたいよ、わたしは」
言ってしまった。前は見れない。こんなの、あっちの記憶が消えたところでわたしが耐えきれるはずない。ふたりで飲むのは……いや、会うのすら、きっと、もう今日で最後になる。
最後ならせめて最後らしくさわやかに迎えたかったけれど、わたしがこんな想いを抱えている時点でそれは不可能だ。隠し通せたら終わりなんて来なかっただろうし、バレてしまったらもう残酷な終わりを待つしかないし。
駿貴は、なにも言わない。
それが、たまらなく怖くて。でも、なにか言われるのも怖いから、なんにも言ってほしくなくって。
彼が、何かを発するために息を吸ったのがわかった。
「…………っうわ、俺、好きかも」
あーー、もう、ぶん殴ってやろうか。
こんなこと言われても嫌いになれない自分もまとめて。
「いまめっちゃキスしてえ、可愛いんだなお前」
「さいってい！！！」
思わず声を荒らげた。だって、だってこんなの、絶対絶対最低だもん。そして、やっぱり嫌いになんてなれない自分も、最低だ。
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作者名：ぶっく。
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年12月29日 21時
