甘やかし上手のあたたかさ ページ16
「山本ってさ、モテそうだよね」
「え？」
そんなことを考えていたら、なんだか腹が立ってきた。山本の思い通りに動くのが癪で、口を開けた彼を無視して言葉を投げた。
どこでも誰かしらをひっかけて、……まあ、遊んでるとまでは言わないけれど、その優しさや天性の可愛らしい表情作りで、わたしだけでなく多くの子を惑わせているのだろう。そんなの、勘違いしちゃう子、多いと思うけどな。全て、わたしの想像だと言ってしまえば、それまでなんだけど。
「モテそう？」
「うん、すっごく」
山本はわたしから掛けられた言葉に、納得がいかない様子だった。
「そんなの言われたことないけどな」
でも、そんなにけろりと答えられては、こちらも納得がいかない。
「え！うそ、モテるよ絶対！山本優しいし」
「っあはは、優しいとモテるの？」
「う、いや、もちろんそれだけじゃないけど」
ふわりふわりと言葉を選んでいく彼は、わたしの発声のぎこちなさに楽しげに目を細める。その、優しい表情を受けて、なんとなく手持ち無沙汰になってしまい、アップルパイを一口分切り分けた。もちろんそれは彼のためではない。わたしが食べるためだった。
そしてこの不思議な感情を誤魔化してしまおうと、頭の中では次の話題を模索していた。
「……モテそうってさあ、いろんな子から好かれそうって意味？」
きっと、わたしがその問いに頷くよりもはやく、彼はわたしの方に乗り出していたのだ。
そして、わたしの手首を掴み、一口分のアップルパイを自らの口へと運んだ、……ようだった。無論、この段階でわたしが彼の行動を理解しているはずはない。ただ、気付いたらフォークからアップルパイがなくなっていて、気付いたらそれを目の前の彼が咀嚼している。
「じゃあさ、Aは僕のこと好きになった？」
山本はアップルパイを飲み込んで、魅力たっぷりに笑った。
その一瞬で、折り重なったものが一気にわたしを攻め立て、ぶわっと顔が熱くなる。
「ねえ、どう？」
この、彼の笑顔がどれほどの子を惑わせているのかなんてわからないけれど、いま、わたしは間違いなく魅せられていて。そして、いま、魅せられているのはわたしだけで。
喉がからっと乾いて、何も考えられなくなった。
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作者名：ぶっく。
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年12月29日 21時
