無意識に努めるという意識 ページ10
金曜日、仕事を終えたわたしは駅のトイレにいた。
よれたファンデーションを軽く拭き取ってパウダーを重ねる。まつ毛を上げ直して、消えた目尻のアイラインを長めに引き直す。目元にラメを足すと、朝よりもすこし華やかになった気がする。
自分が映る鏡を眺めて、頬の赤みを足したり、やっぱり朝より濃い色のリップを塗る。こっそり鼻筋も通しておいた。
「……よし」
伊沢くんと付き合っていた頃よりも、ちょっと濃い色使いに不安になって、淡いリップに塗り直そうかとメイクポーチを漁ったけれど、見つからなかった。
……朝の自分の行動を思い出す。
そうだ、決意が揺らがないように彼受けのしそうなものは置いてきたのだ。
けじめというのは何も呼び方の話だけじゃない。匂いもメイクも帰り際も、ぜんぶ。わたし達の当たり前を恋人から友人に格下げするのだ。
それがかえって、彼を意識しているのだと気付かないものなのだ。
『そろそろ着く』
外に出て、冷えてきた空気を吸い込む。スマホを覗いて前髪を直すついでに通知を確認すると、5分前にLINEがきていた。
『シンボルの近くにいるー』
居場所を伝えて数分待つと、伊沢くんが現れた。
「よっ」
待ち合わせをしている人が多い駅のシンボル前で、片手を上げて笑顔を見せる彼が一際輝いて見えた。
「おつかれさま」
「Aも1週間おつかれ」
伊沢くんが個室の居酒屋を予約してくれたというので、ふたりでそこへ向かう。眠いとかお腹すいたとか上司がムカつくとか、身にならない話をしながら歩いた。
着いたのはすこしお上品な雰囲気のお店だった。味が濃くて美味しいフードを食べて、安い酒をがぶ飲みするつもりだったのですこしびっくりしたけれど、お互い酒を飲み始めたばかりの大学生じゃないし、相手は令和のクイズ王サマだし。気合を入れた女子会で使うような小綺麗なお店も、納得せざるを得ない。
「お通しうっま」
「ね、めっちゃ美味しい。似たメニュー探そ」
適当なお酒とおつまみを頼んだわたし達は美味しいお通しに顔を緩ませていた。メニュー表をめくりながらも箸が止まらない。あまり多くはないそれはすぐに無くなってしまう。
無くなってしまった頃、お酒とおつまみが届いてようやく乾杯をした。
「あ、そういえば今日大丈夫だった？」
くだらない会話の隙間、彼はおずおずと尋ねてきた。言葉の足りない質問と珍しい彼の態度。不思議に思って首を傾げてしまう。
「……ほら、この間、俺を目の敵にしてた男のひと」
ああ、そうか。勘違いされてるんだっけ。
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ウィンターくん(プロフ) - 更新うれしいです！ありがとうございます。ここのとこ2話で話がぐっと進んでますね…！ (2021年4月12日 8時) (
レス) id: 6c1e210fc5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴの。(プロフ) - 初コメントです多分。あまりにも世界観に引き込まれすぎました。ここまで読んで続き！もっと読みたい！早く！ってなりました。読者側がこんなことを言うのも烏滸がましいのですが、文才溢れすぎてもう天才的で他のも読んだことあるのですが全て面白かったです。 (2021年4月10日 21時) (レス) id: 6d66e5d0a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» ウィンターくんさんいつもコメントありがとうございます！これからも頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ゆゆこさん» ゆゆこさん、コメントありがとうございます。楽しみにして何度も読み直していただけたとのことで、とても嬉しいです（ ; ; ）これからはもうすこし更新頻度を上げたいと思ってます！これからもどうかふたりを見守っていてください！！ (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 更新嬉しいです。ご無理なさらず、でもこっそり続きをお待ちしています。 (2021年4月2日 19時) (レス) id: 0f9ee489eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぶっく。
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作成日時：2020年8月10日 23時
