受け入れ難い未来 ページ25
……俺たちが恋人をやめたあの日、Aはずっとおかしかった。
いや、たぶんその前から降り積もった小さな変化があったのだろう。だから正確には、Aは俺によってずっと悩まされていた、となるわけだ。
そしてそれに気付けない余裕の無さは、俺の個人的な問題だった。しかし、彼女からしてみれば、それに気付けないくらい俺が自分のことを気にしていない、という評価になるのだろう。
あの日。それまでのデートプランはほとんど俺が決めていたのに、行きたい場所があるんだと言って先導してくれた。やがて俺らの初デートをなぞっているのだと気付いて、違和感は一気に膨れ上がる。
そして告げられた別れ。縋らずにはいられなかった。
あれが正しい縋り方だったのかはわからない。あの段階で確かだったのは、このまま別れたら後悔するということだけだったから。たぶんあのときの俺はみっともなかったけれど、とにかく繋ぎ止めるのに必死で、そんなの気にしていられなかった。
友達として会うようになった彼女は素直だった。
あれが食べたいとかあそこに行きたいとか、今思えばそれまでが何も言わなすぎだったんだろうけれど、本当に“ただの友達”の気を使わない距離感だった。確証はないけれど、服やメイクの系統、纏っている香りだって、たぶん、付き合っている頃と違っていた。
ある種俺から解放されたと言える彼女は輝いていた。悔しいけれど、別れて正解なのかもしれないと思わざるを得なかった。
友達としてなんとか繋ぎ止めて、友達として大切にして。そして、彼女の中の俺が、元カレから友達に完全にシフトする。その直前に、俺はようやく想いを滲ませ始めた。
練った策略じゃあない。焦ったのだ。一瞬、このままでいいかもと思い始めた自分に。
関係性なんてなんだっていい。彼女が隣にいるのならそれでいい。そうすこしでも思ってしまった俺に腹が立った。そして、このまままっすぐいけばそのゴールしか残されていないという現実にやっと気が付いたのだ。
そんなの妥協でしかない。最低な思考回路に迷い込んだとき、ふっとそれまでの全てが思い浮かんだ。
視線を下げて苦しそうに伝えられた別れ。
苦く笑いながら 伊沢くん と改められた呼び方。
些細なところから滲む俺の彼女じゃなくなったAの良さ。
新しい男の影。この先は弟じゃ済まないかもしれない。
受け入れられなかった。彼女が自分とは関係のないところで生きていくことを想像すると、耐えられない苦しみに襲われた。
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ウィンターくん(プロフ) - 更新うれしいです!ありがとうございます。ここのとこ2話で話がぐっと進んでますね…! (2021年4月12日 8時) (レス) id: 6c1e210fc5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴの。(プロフ) - 初コメントです多分。あまりにも世界観に引き込まれすぎました。ここまで読んで続き!もっと読みたい!早く!ってなりました。読者側がこんなことを言うのも烏滸がましいのですが、文才溢れすぎてもう天才的で他のも読んだことあるのですが全て面白かったです。 (2021年4月10日 21時) (レス) id: 6d66e5d0a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» ウィンターくんさんいつもコメントありがとうございます!これからも頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ゆゆこさん» ゆゆこさん、コメントありがとうございます。楽しみにして何度も読み直していただけたとのことで、とても嬉しいです( ; ; )これからはもうすこし更新頻度を上げたいと思ってます!これからもどうかふたりを見守っていてください!! (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 更新嬉しいです。ご無理なさらず、でもこっそり続きをお待ちしています。 (2021年4月2日 19時) (レス) id: 0f9ee489eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年8月10日 23時