ズドンとこころにお荷物が ページ20
……もし、わたしの選択すべてが間違っていたんだとしても。
何かをわかったつもりになって、彼のことも自分のことも、いままでもこれからも何もわからないまま、また閉じこもって決断を遅らせ続けても何も変わらないのだ。
『バインダー探してたときに伊沢くんがわたしの家に置いていった荷物を見つけたので、返したいです』
『近々会いませんか』
ひとまず、道が途切れてしまわないように応急処置をうった。この行動によって、わたしが終わりを向いたのか、前を向いたのか、わたしにはなにもわからない。
でも、そんなの、どっちだって構わない。
わたしの意思でどうにかなる範疇のこととは思えないのだ。自分の人生を憎き愛おしき他人に任せるのはよくないかもしれないけれど、それでも。
とっくにわたしの人生は伊沢拓司のせいで歪んでる。いまさらすこし叩いたとて、悪い影響も良い影響もさほどないだろう。
彼と出会う前の人生をどう歩んでいたのかすらも思い出せないし、付き合うまでの幸せな期間をどう噛み締めていたのかも大して覚えていない。でもきっと、何も深いことは考えずのうのうと過ごしていたんだろうな、ふたりとも。愛という名のもとに。
『次の土曜の夜空いてる?』
もっと、さわやかに愛せればよかったのかな。
『空いてるよ』
もっと、やわらかく愛を受け止められればよかったのかな。
『荷物結構あるよね?わざわざいいよ』
もっと、はっきりと、
『気遣ってくれてありがとう』
ねえもっと、
『でも、けじめだから』
もっと。
今までのわたし達からしてみればありえないほどスムーズに画面が流れていく。
『いや』
『いざとなれば取りに行くしさ』
でも、隣で歩いて些細なことで笑い合うような会話の仕方じゃない。
『違うの』
『それじゃだめなの』
『いつかじゃだめなの』
遠くにいる君に叫んでいるようなコミュニケーションとも違う。近くにいるのに遠くって、遠くにいるのに、どこか近い。手を伸ばせば届きそうなのだ。右手を差し出せば、彼の左手が包んでくれるような、そんな気さえするのに。
『重いでしょ』
ほんのちょっと、見ている方向が違うから。その手と手が重なり合うことは、ない。小指が触れてどきっとする程度で留まってしまう。
賢い彼は、敢えて半歩ズラしているのかもしれない。それくらいのこと、平気でやってのけるだろう。あの伊沢くんならば。
『そりゃ重いけど、家に置いておくとどんどん重くなるから』
552人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ウィンターくん(プロフ) - 更新うれしいです!ありがとうございます。ここのとこ2話で話がぐっと進んでますね…! (2021年4月12日 8時) (レス) id: 6c1e210fc5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴの。(プロフ) - 初コメントです多分。あまりにも世界観に引き込まれすぎました。ここまで読んで続き!もっと読みたい!早く!ってなりました。読者側がこんなことを言うのも烏滸がましいのですが、文才溢れすぎてもう天才的で他のも読んだことあるのですが全て面白かったです。 (2021年4月10日 21時) (レス) id: 6d66e5d0a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» ウィンターくんさんいつもコメントありがとうございます!これからも頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ゆゆこさん» ゆゆこさん、コメントありがとうございます。楽しみにして何度も読み直していただけたとのことで、とても嬉しいです( ; ; )これからはもうすこし更新頻度を上げたいと思ってます!これからもどうかふたりを見守っていてください!! (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 更新嬉しいです。ご無理なさらず、でもこっそり続きをお待ちしています。 (2021年4月2日 19時) (レス) id: 0f9ee489eb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ぶっく。 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年8月10日 23時