木杭に燈っていた火が揺らぐ ページ1
……わたしって薄情なのかな。
大好きな彼のためならば、なんだってできる気がしてた。
人目を忍ぶ恋だって、彼の隣で笑えるなら耐えられるんだって、そう思ってた。
釣り合うために努力をするのも惜しくなかったし、すこし変装をした彼と並ぶのも慣れればちょっぴり楽しくて。
「珍しいじゃん、Aが行きたい場所言ってくれるの」
でも、疲れちゃった。
もう、自信が持てなくなった。
「……今日は特別だからね」
今日は特別。だって、今日はわたし達の最後のデートだから。彼はわたしがそのつもりであることを知らない。実を言うと、今までだって今日が最後だと心に決めたことは何度もあった。
そして何度も、結局、覚悟が足りなくて別れを言い出せずに「またね」ってわかれちゃって。
「俺、わかったわ。どこ行こうとしてんのか」
でも、今日こそは、本当に最後にするんだ。
わたしの存在が彼の重荷になる前に。彼がわたしに愛想を尽かす前に。大好きな彼から別れを告げられたら、きっと耐えきれなくなって、泣いて縋ってしまう。そんなのみっともないし、ますます嫌われて負のスパイラルに陥る。だから、その前にわたしから。
「っふふ、わかっちゃった？」
今までデートプランは彼に任せっきりだったけど、今日はわたしが決めた。正確に言えば、過去の拓司が。
「あの日の初々しさを思い出したくって」
付き合ってから初めてデートをしたあの輝かしい一日をなぞるようにして、わたしは終わりへと歩いていた。
当時はできたばっかりだった、いまでも大盛況のカフェで軽く昼食を食べた。メニュー表を覗いたらなんとなくまだ他人行儀だった拓司の笑顔が浮かんだ。
そのあと、話題の映画を観に行った。あの日には小説原作の恋愛映画を観たけど、今日は彼の好みの洋画を字幕で観た。わたしが吹き替え派ということは黙っておいた。
そして、学生だったふたりにしてはちょっと背伸びした、いまでもすこし贅沢に感じるホテルのディナーに連れて行ってもらう。あの日よりもずっとエスコートが上手くなった彼に、涙が出そうだ。
……そう、わたし達は恋を閉じるために、あの日をなぞり終えたのだ。
きっともう二度と、今日行ったカフェにも映画館にもホテルにも行かない。始まったあの日のことや、終わったこの日のことを、そしてその間の大切な5年間を思い出してしまうから、どうしたって行くことはできない。
「……俺らもいい大人になったよね」
「ほんとにね、色々思い出しちゃった」
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ウィンターくん(プロフ) - 更新うれしいです！ありがとうございます。ここのとこ2話で話がぐっと進んでますね…！ (2021年4月12日 8時) (
レス) id: 6c1e210fc5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴの。(プロフ) - 初コメントです多分。あまりにも世界観に引き込まれすぎました。ここまで読んで続き！もっと読みたい！早く！ってなりました。読者側がこんなことを言うのも烏滸がましいのですが、文才溢れすぎてもう天才的で他のも読んだことあるのですが全て面白かったです。 (2021年4月10日 21時) (レス) id: 6d66e5d0a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ウィンターくんさん» ウィンターくんさんいつもコメントありがとうございます！これからも頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ゆゆこさん» ゆゆこさん、コメントありがとうございます。楽しみにして何度も読み直していただけたとのことで、とても嬉しいです（ ; ; ）これからはもうすこし更新頻度を上げたいと思ってます！これからもどうかふたりを見守っていてください！！ (2021年4月9日 22時) (レス) id: bcbdfee6f7 (このIDを非表示/違反報告)
ウィンターくん(プロフ) - 更新嬉しいです。ご無理なさらず、でもこっそり続きをお待ちしています。 (2021年4月2日 19時) (レス) id: 0f9ee489eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぶっく。
| 作者ホームページ：
作成日時：2020年8月10日 23時
