【QlK】さいかいからあい【kwkm】〈完結〉

最前、最善、最優先 ページ29

自覚したところで、彼女がぎゅっと俺を抱き締め返した気がした。途端、急に不安が膨らんだ。Aさんがこんなに泣くなんて、どう考えても一大事だろう。自分の感情の心配をしなくてよくなったいま、彼女のことが心配で仕方なくなった。

「何あったんか話せる？」

鼻をすする音こそ聞こえるものの、先程よりは落ち着いたようなので、声を掛けてみた。すると彼女は頷いて、ぽつりぽつりと話し始める。抱き締めていたのをそっと離して話を聞くことにした。

「まず、……その、元彼の話なんですけど、」

俺は彼女が頑張って話しているのに、頷いたり相槌を打つことしかできなかった。どれをとっても信じられなかった。信じたくなかった。

とにかく、俺とAさんが会ってなかった2、3年の間に彼女が色々と辛い思いをして、それも今日の涙も大方元彼のせいであるということ。

その男に対しての怒りとか、彼女への心配とか、とにかく色々なことが頭を支配した。けど、俺が1人で考えるべきことは目の前の彼女をどう元気づけるか、だけだ。

別れた女の子にわざわざ嫌われるようなことを繰り返すその男の心理はまるでわからないし、わかりたくない。それを理解しないと止められない気もするけれど、…否、まだそこまで考えなくていいのだ。

その男への対処とか、これからの対策とか、そういう話はこれからの彼女とじっくりしなくてはならないのだ。だから、いまは、彼女を元のペースに戻さなくては。彼女の気持ちを安定させるのを、最優先に。泣きたいなら泣いてもらってもいいけれど、落ち着きたいように見える。

「……大丈夫だと、思ってたんです」

ああ、これじゃだめだ。目の前の彼女のことを考えなければ、と思いながら俺は自分一人で考え込んでしまっていた。Aさんが苦しそうにそう言うのを見て気付いた。あれこれ考えるよりも、俺がまず普段の調子で話そうか。

「迷惑とか思ってないから」

できるだけ優しく笑ってそう言う。それが今の最善だ。内容に深く突っ込んで話すのは、それについて考えるのは、後にしよう。

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