それが特別な意味になっていく ページ22
「伊沢さんと何話してたん?」
川上先輩がわたしを見ずにそう聞いてくるけど、わたしは答えに詰まる。正直に言うのは恥ずかしい。でも隠すことでもない。苦笑いをして誤魔化していると、彼はこっちを覗き込んできた。
「ず、ずっと川上先輩のこと話してましたよ」
無言で見つめてくる川上先輩の圧力に耐えきれず、そう答えると、彼は目を丸くしてわたしの視界から消え、また前を向き直した。というかむしろ反対方向を見始めた。よかった、わたし今どんな顔してるか自分でもわからない。
「ひひ、…あ、そういえば、カフェで再会したとき、一緒にいらしたの伊沢さんだったんですね」
わたしにとっては割とびっくりの新事実だったんだけど、川上先輩は ああ と短く返してくるだけだった。冷たくされるようなことしてないはずなのになんでこんな食いつき悪いんだろう。時間が経ってもこっちを向いてこないという違和感に、わたしなりのひとつの答えが出た。
「え、川上先輩照れてるんですか」
半分冗談のつもりで、からかってやろうとそう声をかけると、反射的に川上先輩はこっちを見た。ほの暗い道でもなんとなくその顔が赤くなっているのがわかる。こんな先輩、初めて見た。
「何言ってんの、もう」
……正直、その顔にドキッとした。
今、絶対浮かべるべきじゃない須貝さんの言葉が頭をよぎる。「Aちゃんてさ、川上のこと好きなの?」よくわからないとあのときは答えた。しかし、今はどうだろう。
お昼にパスタを食べていたとき、思わず口からするっと 好き と出た。川上先輩はなんとも思ってないような顔をしていたし、わたしもそうしたつもりだった。もちろん、あのとき口から出た好きに偽りはないし、かと言って特別な意味を持たせたつもりもない。…でも、今考えると、どうも。
「ひひ、川上先輩照れてる」
「は、うるさいし、そんなことないって」
あー、この間までは、認めずにやり過ごせたのに。
「てか、Aさんも顔赤いから」
いたずらっ子みたいな顔でこっちを見て笑う川上先輩に、ドキドキしちゃうのは、やっぱり、そういうことなんだろう。
この気持ちを認めてしまったら、どうやって彼と接すればいいのかわからなくなる。だから決断を避けていた。今まではむりやり誤魔化せていた自分の気持ちにもう嘘をつき通せなくなった。…最低なあの男のことなんて、頭になかった。
わたしは、川上先輩のことが好きだ。
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ぶっく。(プロフ) - カルボンさん» カルボンさん、コメントありがとうございます…!推しを書きたいように書いているのでそう言っていただけて嬉しいです!もっと楽しんでいただけるように頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。 (2020年3月13日 1時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - 川上さん推しの私、楽しく読ませて頂いております!私自身が長いお話を書くのが得意ではないので、ただただ尊敬です。。これからも更新楽しみにしていますね! (2020年3月12日 22時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ぷち。さん» ぷち。さんはじめまして、コメントありがとうございます!普段ぷち。さんの作品を楽しませていただいているのでコメントいただけてびっくりしました、とても嬉しいです…!頑張りますのでこれからもよろしくお願いします! (2020年3月12日 20時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
ぷち。(プロフ) - コメント失礼します…!川上さんを始め、皆さんかっこよくてドキドキが止まらないです。最高に好きです。これからも更新頑張ってください、応援してます!! (2020年3月12日 15時) (レス) id: f3200af55f (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - ひなたさん» ひなたさん、はじめまして。すごく嬉しいコメントありがとうございます(;_;)両片想いの行く末を楽しみにして頂けると嬉しいです、これからもよろしくお願いいたします! (2020年3月4日 15時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぶっく。 | 作成日時:2020年2月16日 19時